豪雪地方の脅威…其れは止む事を知らぬ雪の突風とその尋常でない冷気の事であると身を
もって証明してくれた少年達が居るのは…この地方の中心地【celse】氷の女神の名前を
関するこの小さな町の関所の前…雪と氷に塗れた遭難寸前のいでたちで、石畳に座り込んで
いる、とある状況さえ覗けば非常に同情を呼ぶ光景なのであろうがその風情をこの地方では
異常なほど薄着の見ていれば寒気がはしる様な格好をした肌の浅黒い少年?と思しき影と…
貫ける様な白い肌を防寒用の分厚いジャケットから冷たげに少し露出させているその肌は寒さ
のためか赤味を増した痛々しい感じを否めない…と言った感じの状態にあるこちらも少年?と思
しき影が正午の鐘が町に鳴り響いた辺りから…永遠と口喧嘩を繰り返しているそのさまが見事に
吹き飛ばしている…。

「…だから、アレほど、嵐が止むのを待ってから出発した方が良いって言ってたんじゃねーかっ!。」

分厚い防寒着で着膨れした、少年?らしき影が声を荒げながら、先ほどから何度目ともいえない
同じ言葉を自分の正面にいる少年?らしき影に怒鳴りつけている。

「うるせぇなっ、この程度でぴーぴー言ってんじゃねぇっ!!大体テメェはさっきからしつけーんだボケっ!!。」

防寒用のフードでその顔は良く見えないものの聞く限りでは両名とも相当な口の悪さのようだ…。

「う〜、そろそろ…町の中に入ろうよー…。」

その2名の少年?の問答を永遠と聞かされ続けているのは年のころ12〜13歳であろう少年?と…
このメンバーの中で最年長と思われる、18歳前後の眼鏡をかけた少年らが一人はむくれてながら
速く暖かい宿屋にでも入りたいのか催促の言葉をよこしている…。

「アーク…止めとき、この状態のこいつらに、何か言った所でなーんも聞えてへんわ…。」

と、その口から紡ぎだされる言葉は何か独特の響きと癖を持っていて…一度聞くと何か耳に残る
声である…その少年が半分呆れた感じを醸し出しつつ、毎度の事だと言わんばかりに…アーク
とよんだ12〜13歳の少年?に注釈を入れている之だけを見れば微笑ましい?光景なのであろう
が、関所のしかも道のど真ん中で喧嘩を…し続けるので有るから、迷惑極まりない…。

「…だから、なんでこんな天気の不安定な時に強行突破みてぇな事しなきゃなんねーんだって言ってんだよ!。」

「だーかーらー、さっきから言ってんだろうがっ時間がねーんだよっ時間がっ!!。」

その、言いあいには・・・気迫すら漂っている状態なのであるが石畳の風の当たらぬ建物
の近くに腰を下ろす二名にはまるで効いていないようで…。

「なぁ…アーク、俺等だけで行ってまおうか…。」

「ロウラン、良いこと言うね〜それに賛成〜♪。」

アホらしい…とばかりにロウランと呼ばれた……少年が提案した何気ない言葉を待ってましたとば
かりに賛成するアーク、ならば急げと町中へかけ出していく、其れを追うのはロウランで…向かうは
町のメインストリートの一番奥に有る、この町唯一の宿屋であった…。

「あの〜…君達、行かなくても良いのかい…?。」

ロウランたちがとうに宿屋に足を向けたのにも拘らず喧嘩腰だった2名であるがこの町の門兵
の一言に、自分達が置いていかれた事を知り…慌てて、2人の後を追ったのは言うまでも無い。

「っくぁ〜…さぶいは〜…。」

「ん?…あっレンファ達やっと着たみたい〜。」

かなり暑いコートやジャケットを羽織っているのにも関わらず、この地方独特の刺す様な冷気に
完全に負けたとばかりに身震いをしながら…とぼとぼと宿屋への道を歩いていたロウラン達
が調度その道を3分の2ほど進んだ時に後ろから聞えてくる聞き覚えのある声に振り向いてみれば
必死に後を追ってくるレンファ達の姿をアークが見つけほっとしたとばかり無邪気な笑顔つきで
手を振っている。

「ちょっと、待ってくれって…お〜いっ!!。」

けして直線とはいえ無いメインストリートをその軽装も功をそうしてか…身軽にかけてくる
レンファと……―――。

「…置いてってんじゃ…ねぇって……おいっ!。」

着膨れしてしまい上手く動けないレイクが…ハアハアと息を切らしながらただでさえ走り難いうえに
雪が積もってしまい滑る道を一生懸命…走ってくる…。

「速く・速く〜〜、僕もうサムサムなんだよね〜。」

「せやでー、さっさと来いや…凍え死にそうやわ。」

ロウラン・アーク達に急かされるまま…雪の石畳道を走るレンファとレイクで有るが取り合えず…
今現在の目的のため先ほどの喧嘩の内容は脳内から抹消されてしまっている様だ…。


「あ〜っ、やっと追いついたぜ〜っ。」

「後、もう一寸だよ〜頑張って〜♪。」

一足先に宿屋の前に着いたアークがレンファ達を手招きして上機嫌に呼んでいる…そのアーク
の背後には町の大きさからすれば割と立派ともいえる門構えを見せているレンガ造りのその壁
が何か温もりを感じさせる。

「此処やで…何や、ドット疲れがでたわ〜。」

レンファ達を置き去りにした際…に町の道具屋で買い求めたこの町の地図とニラメッコしながら
此処が目的の宿屋である事を最終確認する…ロウラン、尤もこの町に宿屋は此処一つであるの
で…間違いようも無いので有るが…それでも心配なのがロウランなのである…。

「で…?宿屋の名前は…何なんだ?。」

「え〜と、チョット待ってな〜………”Vanille”?。」

”Vanille”…その単語を聞いたとたん…にレンファ達の瞳が懐かしげに細められる…その瞳は遥か昔を見ている様にも見える…。

「へぇ〜…、良い名前じゃない…ねぇ?。」

嬉々とした感じで皆に話し掛けるアークの瞳は懐かしさと何か深い悲しみを湛えて輝いていた
様にも映る…本人には一切憂いと言った感情は芽生えていない様であるが…。

「あぁ、確かにな…良い名前じゃん……。」

「そやなぁ…せやけど、はよ入りたいわ…。」

その特別な言葉に…とある遠き日の記憶を重ねながらレイクとロウランが言葉を綴る…
尤も…直に現状を思い出し、寒さに身震いしながら…宿屋の扉を開けるレンファ達で有った…
ただ、宿屋の中に足を踏み入れた彼等?の頬をつたうのは一筋の暖かき雫で有ったの
である…その懐かしい光景とその香り…特別なその香りに包まれて…彼等は白昼夢を……


―――見る―――。






上空から、朝一番の肌寒い風が『シーズ』の村に吹き付ける…。

この村は辺境中の辺境…有る小さな村しかし本国”エメラルドバレー”を含む数多のバレー
に輸出している『ヴァニラ』の65%がこの村の生産である…。

『シーズ』の村では朝一番に吹く濃厚な…”Vanille”の香りがする風が吹きつける時からその日が始まる
のだ…。

――そして、今日一日が又始まる…――


「…ン…ファ…レン……レンファ……。」

「………?。」

暖かい布団…柔らかなベッドそして…懐かしい声…その意識はいまだ微睡の中に…。


「レンファ…レンファ…レンファっ…!!」

まだ、聞えているその声…夢か幻か…微睡を続けようと寝返りを打てば、布団を剥がされて
背を丸める…何時もの光景…。

「レンファっ、さっさと…起きてくださいませっ今日は大切な収穫祭の日ですのよっ!!」

「………??……!?…ロウ…ファ…?…。」

夢か幻か…はたまた現実か…懐かしい顔懐かしい景色…そのままの姿、呆気にとられて
見上げれば、其処に有る何時もの光景…当たり前のように…そこにある…。

「如何かしましたの?…あぁっ!もうこんな時間ですのねっ…今日はとっても忙しくなるんです
のですからからさっさと支度をして下さいませんとっ。」

「ん〜…あぁ、一寸待ってよ…今…今、行くからさっ…!。」

されど拭えない矛盾…今まで見ていたのは夢なのか?と問いたくなる様な…感覚、だがそれも
朝独特のサイクルで消え去ろうとする中…頭をよぎるのは…――。

『…此処、シーズ…だよな…如何してだ?…もう…もう…存在しない筈なのに……。』

されど其処には…皆が居るのだ、ジジ・ババ…ロウファもカルカも其れが当たり前の様に…
其処にいて…まだ、付いていけていない頭を必死に横に振りながら…変に難しい表情をして
いる…レンファの後ろら…低くも穏やかなカルカの声が聞えてくる…そして、その手が寝巻き
のままで首を傾げるレンファの頭を軽く小突く。

「…レンファ…、今日はとても忙しい日…気を抜かない様に……。」

「…その落ち着きが、何時もでていて下さいますと一国の主にも見えますのに…。」


何時もは子どものようにはしゃいでいるのにと苦笑するそのクセのある喋り方…そんな
会話で…じゃぁ、何時もの通りあばれっか?と調子を戻すカルカに…たまには良いかと…
溜息をつくロウファ…レンファの頭は混乱するばかりで…ある…。

「ほらっ、ぼさっとしてません事よっ…!!。」

「って、イッテェ!…何も殴る事ねぇじゃんかっ!。」

事の進展が無いとさとったロウファの強烈な一撃がレンファの頭にクリンヒットしてその痛さに
今まで考えていた事を一気に飛ばされたレンファは…毎度の如し、兄弟喧嘩に突入かと
思いきや…カルカの笑い声で踏みとどまる…。

「レンファ、おめーにゃ、悩み事は似合わねぇよ。」

「…笑うんじゃねぇ…ってか、戻ってるし…。」

痛む頭を押えながら半泣き顔でカルカを見上げれば、全く何時もの調子で笑う始末で、先ほどの
威厳何処へやらと消えている…。

「全く…用意は出来ましたの?…マダなら、速くして下さいませっ…私は一足先に…集合場所に
行ってますわっ。」

そういうや否や…深紅の翼を広げて…集合場所へと飛んでいってしまう…その姿は何時もは結ば
ない髪をポニーテールにし、動きやすいラフな格好で何時もより少年ぽくみえるなぁ…とか要らな
いかんがえに浸るレンファが其処にはいた…。

「さてと…朝飯の…時間はねぇか。」

「用意が出来たんなら…さっさと来いよ…俺も先に行っているからな……。」

そう言うとレンファ一人を…家に置き…カルカも又、集合場所へと向かって行った…それを見送り
自分ものそのそとベッドから這い出したレンファは自分の右斜め後ろにあるクローゼットから…
適当に服を取り出し…髪をしばって…、自分も急ぎ足で…家を後にした…。

暫く、早足で歩いていくと家から続くゆるい坂道を下りきった所に有る泉の傍でレイク・ロウラン
アーク達幼馴染みが背中に大きな篭を背負って待っていた様だ…。

「レンファ、自分遅いで〜?先に行ってしまおうかとかおもっとった所や。」

「ったく、遅すぎんのにも程が有るじゃねぇのか?あぁ??。」

相変らずどこか間延びした感じで喋るその横で時間を気にしてかはたまた…別の何かで機嫌
が悪いのか…食って掛かるレイクを慣れたとばかりに慰めるアークがこれまたのんびりとした
口調で…。

「も〜〜、朝からプンプン顔は駄目なんだからね〜〜〜〜〜。」

と、満面の笑顔で微笑むアークであるが…その笑顔を危険とサッチしたのか…何時もの
様にレンファとレイクの言いあいには成らず終始する…このアーク…笑いながら切れる
タイプである…ただ其れは恐いの一言に尽きると誰かが溢していたとかいないとか…。

そして、太陽は先程よりも高い位置から村を照らし…レンファ達も足早に集合場所へと
…到着する…。

そして、午前の10時…ごろをもって…Vanilleの収穫祭は幕を開ける―――――――。


――まるで、遠い記憶のような…

――懐かしすぎる香りが満ちて…


――甘い夢の様で悲しくなって…


――その、思い出に涙する…


――時には必要な…事、忘れられない…


――懐かしき日々と悲しき思ひ出――






「……お客様……お…客……さま?。」

急に目の前が白く成ったと思うと其処は先ほど入った宿のフロントに戻っていた…。


「お客様…大丈夫ですか………?。」

50歳位であろうか…、この宿のオーナーだと言う、初老の方がとても優しい微笑をくれる。

「あぁ、はい…大丈夫です…失礼しました…。」

呆けている4人のうち一番最初に気がついて声を発したのはロウランであった…。

「そうですか?、ならば良いのですが…お疲れでしょう?……其処のフロントでの手続きは後で
 宜しいですから…お部屋に案内いたしましょうか?。」

「いぇ、其れは…フロントですね?」

とてもお疲れの様だから…先に部屋へどうぞと微笑むオーナーに一礼してフロントへ手続きに
ロウランはレンファ達のところを離れていった。

「今の、何だったんだ…?。」

「さぁ?、俺も見たけど…訳わからねぇ…。」

フロントで手続きをすましているロウランの方に何となく視線を向けるとその壁に掛かる
装飾・色々な調度品…其れは、全て懐かしいモノばかりで…そして、この宿に漂う香りは
…”Vanille”…何故か自分達の今は亡き故郷に似ているところばかりでその時は、不思
議な思いをしたレンファ達であったが…ロウランが、手続きを済まして…部屋へいこうと…
皆を集め向かおうとした時…この宿のオーナーが言った一言…。

「如何ですか?…私の故郷…『シーズ』の伝統的な調度品たちは…。」

お気に入りのようでしたので…と微笑まれて…その暫し後に知った事、それはこの宿のオーナー
が『シーズ』出身であり生き残りであったと言う事を……。

「偶然って、有るものなんだねぇ〜。」

部屋に入って、昔は何時も自分達の身の回りにあったそれらを眺めながら暫ししんみりと
していた…レンファ達であったが…普段と変わりないアークの間の抜けた感じの声で…復帰する…。

「そやな〜、腹も減ったし…そろそろ、いこか。」

「あぁ、其れが良いな……。」

何時もの如しの会話を交わし…部屋を出るて行く…そして最後にレイクが出ようとしてふと
振り向き…。

「寝てんなよ、置いてっちまうからな。」

ベッドの上に寝転がっている…レンファに一声かけて…部屋から出て行く…。

その、落ち着いた感じの部屋にはレンファだけがいて、そして…思い出していた事は

あの収穫祭の後の事…。

『あの後、まさか…日常が非日常に…俺達の村…故郷の村、全てが無くなって…たとえ事故だと
 しても、消えてなくなるなんて事考えもしなかった…ただ、そんな事故の中何の因果か俺達
 は、生き残って…廃墟になったあの場所で…あの人たちに助けられて…親父は研究院にはい
 って、ロウファとは暫く会えなかったっけな。』

ただ、天井を眺めて…レンファは何かを考え続ける…。

『あの人、親父と似てたな…まぁ、血が繋がってるし、当然といえば当然なんだけど…たださ…
 あの時のあの言葉が…こんな意味合いを持ってくるなんてな…”やっと見つけた…御子達”。』

その後、エメラルドバレーに移ったんだよな…と思考を走らせるレンファの元へ。

「はよせんと、食うもん無くなるで〜?。」

「あ?…あぁ!?…待て今行くから、一寸待てっ。」

食べるものが無くなると言われ慌てて身を起すレンファ其れを確認すると意地悪そうなそれで
いて優しげな表情のロウランに連れらて…酒場へと…消えていくレンファの姿が有ったという…。


――運命の鍵を握りし…御子達新たなる元素
その輝きが曇らぬようにその輝きが砕け
ぬ様に…見守り続けよう、私が出来る事
であるならば…そなた達の旅路は続く…
”クロノ・エンブレム”を求め、そして…自ら
を見つけるために―――




誰も居なくなったその場所に何処からとも無く響く声…其れの持ち主?…其れは貴方達の
直近くに居る…そうその者…。