「…?」 エルが何やら突然、不審そうな表情を浮かべる。 「…どうしたの? エル」 「いえ、何でも…」 少し心配そうに聞くティンクだったが、それにすぐに答えるエル。 エルは突然、何やら邪悪な気配や、切実な願いを感じた…ような気がした。 だが、エルにはその原因がなんとなく理解できていた。 …恐らく、邪悪な気配はお義母さんの、切実な願いはケティのね。 そう納得するエルだった。 …だが、まさかそのケティが、ファティアとは関係ないところでとんでもない2次被害を被っていたとはエルには想像すら出来なかっただろうが。 「とりあえず、気にしないでおきましょう」 とりあえず、関わるとろくなことにならないのは分かっていたので、無視することにしたエルと。 「?」 最後まで疑問顔なティンクだった。
試練
と、ファティアの明るい声が響き渡る。 「嫌に元気ねぇ…」 と、疑問声のティンク。 エルにはなんとなく理由はわかったが、怖くて言えなかった。 なんとなく、巻き込まれそうだったから。 「まあ良いわ、それよりも、手伝って、ファティア」 「手伝うって何を? ティンクちゃん」 「もちろん…エルの覚醒よ」 …なんとなく、その言葉を聞いたとき、ものすごく嫌な予感を感じました。 「具体的に何を?」 …お願いです、出来ればその言葉の先を訊かないでください。 何故か、壮絶に嫌な予感がしますから。
…暇だ、なんだか知らんが手持ち無沙汰だ。 タロンとケティはどこかへ行ってしまったし、エルは寝てるし…。 かといって起きてしまったので寝るわけにもいかないし…。 …というか、エルの傍じゃ寝るに寝れない気がする。 …その、精神的に。 「暇だなぁ…」 ソファをベッド代わりにするという手もあるが、なんとなくそう言う気になれない。 一瞬、タロンとケティが何処へ行ったのか追求するという考えが頭に浮かんだが、すぐに何故か強烈な悪寒が走り、その考えを即座に取りやめた。 そして結論、本能が激しく警告するから止めとこう。 「ふぅ…」 となると、後残ってるのは…アルメリアさんか? …寝てそうな気はするが。 「ま、良いか」 寝てたら寝てたで起こせば良いか。 …凄いはた迷惑のような気もするが。
「タロンさん?」 …違うってば、ちょっと意気消沈。 「俺です、リムです」 と話して扉をあけようとしたが…。 「え! リム君!? だめ! 開けないで!!」 …その悲鳴に近い叫び声に思わずノブを握ったまま硬直…。 …一体何が? 「ごめん、リム君、そのまま聞いてくれる?」 「…はい」 「あのね…実は私、男性恐怖症なの」 「…」 今、なんと? 「あの、聞いてる?」 「あの、もう一度…」 「だから、男性恐怖症なの」 …何で俺って男性恐怖症の女性と縁が多いんだろう? キュリ姉と言い、エルといい…って、エルは違うか。 …あれ? そう言えば…。 「え、ってか、タロンは大丈夫なの?」 「あ、タロンさんなら大丈夫…というより、タロンさんが傍にいるなら、別に男性と接してても平気なんだけど…」 …これを一種の惚気と取ってしまうのは俺が捻くれてるからか? 「でも、一人だとどうしても、ね…だから、今リム君が入ってきたら何しちゃうかわからないから…ごめんね」 「…そう言う事情なら仕方ないですって」 「うん、…ごめんね、リム君」 しかし、アルメリアさんってそう言う風に見えないんだが…。 まあ、気にはなるがいろいろ事情があるんだろう。 根掘り葉掘り聞いて傷つけるよりはましだろう。 「それじゃ、俺は部屋に戻ります」 「…あれ? 何か用があったんじゃないの?」 「いや、寝れなくて暇だっただけです」 「そう、ごめんね、話し相手になれなくて」 「いえ、それじゃ、おやすみなさい」 「おやすみなさい、リム君」 …そう言えば、今って深夜3時超えてるんだが…寝起きって感じじゃなかったよな。 夜更かしに慣れてるのか? 「…」 あまり深く考えないでおこう。
右、いや、右と上!! それを感じ取ると同時に、左の方に移動し、さらにヘッドスライディングの要領で…といっても、端から見るとこけたようにも見えるけど…前に滑り込む。 すると、右の方から風の刃が飛んできて、頭上をすり抜けていく。 さらに、左、右、左と反復横跳びのように移動する。 そして、今までいた場所に大量の小さな水の弾が弾け跳ぶ。 「ほら其処休まない! きびきび動く!!」 「お義母さん、絶対に楽しんでるでしょ!?」 「何言ってるの! コーチ、もう無理ですという教え子をしごくバレーボールのコーチのごとく! これはわが子を思う愛の鞭よ!!」 …こう言うのもなんですけど、ものすごくうそ臭いです。 「さてその心は?」 「こんな良い機会、逃してたまるもんですか!」 「機会って! 何ですかそれ!?」 「気にしない! さっきエルちゃんから出た悪意の分まで!」 「おねがいですから思考の自由くらい与えてください!!」 まあ、なんと言いますか、さっきの壮絶に嫌な予感が当たったといいますか。 用は、こっちは魔法を使用禁止にされた状態でお義母さんの放つ魔法をよけきるというものなんですが…。 「ええいうろちょろと鬱陶しい! さっさと当たって、そして儚く散っちゃいなさい! エル!!」 「そんな滅茶苦茶な! しかも最初の目的忘れてるでしょ〜〜〜!?」 「当然だけどエル、当たったらお仕置きよ」 「は、はい!」 「それじゃ当たらなかったら私がお仕置き!」 「ど、どうしろって言うんですか〜〜〜〜〜〜!?」 「ハイハイ、くっちゃべってる暇があったら避ける避ける!」 「はぅ〜〜〜〜〜!!??」 間違いなく、楽しんでます、お義母さん…。 この性悪… 「エル、もう十時間ぐらい追加してあげようか!?」 いえ、何でもありません。
部屋に戻ってくるのと同じタイミングで、エルが突然うなされ出した。 どうやら悪夢を見ているのか、何やら表情が少々青い。 …まあ、そうたいしたことではないが、一応濡らしたタオルを寝ているエルの額に置いた。 「…ったく、早く起きれっちゅうに」 なんとなく暇だった。 …まあ、さっきからだが。 「…?」 と、何か、突然違和感を感じた。 …何処がどうと言うわけではない。 ただ、漠然とした違和感。 それが何かはわからない。 が、何か、嫌な予感がする。 そして、この手の予感は必ずと言って良いほど当たる。 「…」 ウェルチとReason'sFangを傍に置く。 …何か、邪な気が集まっているような気がする。 「嫌な感じだな…」 だが、どうすることも出来ず、リムには静観するしかなかった。 そして、それが無性に悔しかった。
後書き
と、とりあえずReason'sFang35話、お届けしました。 2003/05/15 Vol1.00 公開 |