「…っ…」 まぶたが自然と上がっていく。 いつもの感覚と言えばいつもの感覚だ。 …ただ、いつもと違い、周囲は暗く、目覚めは絶対的に悪い方だが。 「…重い…」 体が凄く重い。 まるで鉛を飲んだかのような重さだった。 「辛い…」 頭がやけにがんがんする。 「昨日…何があった?」 全然動かない頭で考え出す。 昨日…確か…。 「…ッ!!!」 思い出した! そして、急激に起き上がり、全身の痛みに動きを止める。 「ウィル…」 さまざまな真実を…それを俺は信じているわけではないのだが…知らされ、更にウィルを奴の手に落としてしまった。 …だが、いつまでも悔やんでも仕方が無い。 とられたものは取り戻す。 それだけの話だ。 自分にそう言い聞かせて、改めて冷静に周囲を見回した。 ここは…ウェリアの宿屋だ。 というか、一昨日まで俺が止まっていた部屋だった。 横には、ぐっすりと寝ている…。 「ちょっとまて…! 何でエルが此処にいるんだ!?」
幕間 とりあえず、エルの服装も俺の服装も特に変な所はない。 ただ、エルの服は此処の宿屋の寝巻きになっていたが。 「…というか、エルがそんなことはするわけないか」 …具体的にどういうこと、とかは聞かないでほしい。 …誰に言っているのだろう、俺は。 そして、冷静になって、ふと。 「…? なんかおかしい…ような」 妙な違和感を感じた。
だが、いくら考えても上手くいかない自分の頭ではその疑問がなんなのか、考え付かなかった。 「…ふぅ」 こういうときはいくら考えても自分では思いつかないものだ。 そう思い、風呂に入ろうかと思い立ち、バスルームの方へ行く。 ガラガラガラ…。 そんな硬い音を立てつつ、バスルームの扉が開く。 「……………………………」 「…ヴ、ヴグフグ〜〜〜!!」 「……………………………」 「…ヴグフグ、フヴ〜〜〜〜!!!」 …静かな沈黙が続いているんだ、そうなんだ。 ガラガラガラ〜〜、ドシャ!! 「…」 「ヴヴ〜ヴヴ〜〜!!!!」 …そうなんだ、俺が中で見たのも、中でいまだに何か音がするのも、その音を発する物体も、俺の幻覚または幻聴なんだ…。 その時、ガチャ…と音が入口の方で音がした。 「お、起きたか、リム」 それは紛れもなく、タロンの声だった。 「あ…タロン」 「…どうした、雰囲気から表情が土気色なら分かるが、微妙に赤くして」 「あ、いや、あの、その」 「…? バスルームに…」 そこまで良いかけ、その台詞を止め、表情を変えずにこっちに向かって歩いてきて。 「あ…ちょ」 俺が言いかけたのを制して、バスルームの扉を開ける。 「…ヴ、ブブンフ〜ン!!!」 「…はぁっ…」 そして、タロンがあきれたようなあきらめたような溜め息を吐き出す。 …あ、戦闘時以外にタロンがこれだけ表情を崩したの見たの、初めてかもしれない。 …じゃなくて。 「タロン、あんまり信じてないかもしれないけど一応言っておく、俺は無実だ」 「…分かってる、原因が誰か分かってるし、これももう慣れた」 …いやアンタ、慣れたって、その原因を小一時間ほど使って問い詰めたい気分だぞ。 「…ってか、知り合いか? コイツ」 「…ああ、まあな」 そう俺の方に振り向いて一言。 「リム、予備のバスローブを持ってきてくれ」 その表情に変化はなかった。 …本当に慣れとるのか、コイツは。 …というか、何で。 「なんで俺の夢に出てきたあのオオボケ天然娘が現実に! 俺の前に出てくるんだ!?」 「ああ、コイツは夢魔の一族に近い存在だからな」 へぇ…そうなんだ…って。 「そんなこと、簡単にばらして良いのか?」 「実害はない」 ま、それもそうか。 …すぐに納得してしまうあたり、俺も意外と適応性が高いのか…。
「…ふぅ」 「なに、その人生に疲れたような溜め息は…」 「人生と言うか変な人との付き合いに疲れてるぞ」 ちなみにこれは本心だ。 「まー頑張ってよ、ね♪」 その元凶が何かのたまっている。 「…何か悪意を感じるよ…」 「気のせいだ」 「気のせいだろ」 俺とタロンの声が被る。 「う〜…やっぱり悪意を感じるよ〜…」 悪意の塊が何をのたまう。 「絶対気のせいだ」 「絶対気のせいだろ」 「う〜…」 「お前な…」 「私はお前って名前じゃないの、ケティって名前があるの!」 「…俺がお前の名前を知ってたらそれはそれで怖いぞ」 「…あ」 …オオボケ天然娘からオオボケ天然馬鹿娘に昇格決定。 「今、とてつもない悪意を感じたよ〜〜!」 「とてつもなく気のせいだ」 「とてつもなく気のせいだろ」 「う〜〜!!!」 …さっきから、いやにタロンと気が合うな…。 「…で、ケティ、お前、仕事はどうした?」 「……………(ビクッ!)」 タロンのその言葉に傍から見ていやになるほどのリアクションを見せ、固まるケティ。 「人の夢に入って遊んでるほどの暇があるンだから、当然仕事は終らせたんだろうな?」 当然、を酷く強調して語りかけるタロン。 傍から見て怪しすぎる笑顔を貼り付け、固まり続けるケティ。 わけが分からず、ただ見守るだけの俺。
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「…ファティア行き決定」
「…ちょ、お、お願いします、タロン様、それだけは…って!」
「……………」
「…いや、それよりも今ならアイツに…」
「…そ、それはダメ〜〜〜〜!!! あ、あ、あ、あの人は、あの人だけは〜〜!!!」
「……………」
「さて、そうと決まったらきびきび行くぞ!」
「い、嫌〜〜!! たす、助けてリム〜〜〜〜!!!」
「……………」
「さ、あきらめていくぞ!」
「ひ、卑怯者〜〜〜〜〜!!!!!」
「……………」 …こんな行程の後、タロンはケティを連れ去ったのであった。 そしてベッドの縁に座り込んで一言。 「何で俺、こんなに疲れてるんだ…?」 そして傍で…あれだけ絶叫とか負の念とかが漂っていたのにもかかわらず…全く眼を覚まさない白龍族のお嬢さんに一言。 「エル…お前は絶対あんなふうにならないでくれ…」 …リムの今の、心のそこからの願いだった。 …最も、リムの知る所ではないが、ケティの近親者である彼女ももしかしたら危ないのかもしれない…。 それは、リムにとっては最悪の事態かもしれないが。 「…今、そこはかとなく嫌な予感が…」 ちなみに、当然と言えば当然だが、俺は彼女があの後どうなったかは知らない。 …まあ、死んじゃいないだろ。
後書き …小説じゃねぇ、特に後半部分(核爆 いや、一度こんな感じでやってみたかったから…(ヲイ 多分、やらないと思うけど…もしかしたらまたギャグパートでやるかも(ヲイ 2003/04/03 Vol1.00 公開 |