「…そうね、エルにちゃんとした決心があるなら、大丈夫…よね」 自分に言い聞かせるように呟くティンク。 「分かったわ、エル、今からここでとある人の記憶を見せるわ」 「記憶…ですか?」 「ええ、正確に言うと、夢って言ったほうが正しいかも知れないけど…、とにかく、エルはそこでその人の記憶を追体験することになるの」 どこか遠い眼をしながら語るティンク。 自分の記憶を思い出しているのかもしれない。 「それは…結構辛いの、それでも、良いのね?」 言い終わるとエルを見つめるティンク、まるで、「行かないでほしい」といっているかのように。 「はい」 それでも、エルには覚悟は出来ていた。
白龍族として… 5 夢を継ぐもの そして、少しして周囲に光が満ち溢れる…。 「ここ…は?」 見たこともない、悲惨な風景、それが私の第一印象だった。 どうやら、この記憶の持ち主はどこかの檻見たいな物に閉じ込められているようでした。 そして、私が見える範囲で集めた情報を纏めるとこの体の持ち主は…。 「…白龍…族?」 どうやら、そのようでした。 それも、他の生物に化けていない状態の、素の龍のようでした。 体の大きさから言うと、私と同じ位の歳の…。 そこまで考えて少し混乱してしまいました。 「えっと…」 とりあえず体は私の意思で動かせるようなので、体の状態を客観的に……とはいってももともと私の体ではないですが……観察してみます。 …どうやら、かなり衰弱しているようです。 リムさんに助けられた頃の私のように。 どうやら、長い間この檻の中で暮らしているようですが…。 「でも、どうして?」 私には、檻に閉じ込められている理由がわかりませんでした。 牙や鱗などを狙っているなら、長い間檻に閉じ込められていることは無いと思うのですが…。 檻に入れられるとしたら、何かの交渉材料になると思ったのでしょうか? しかし、それも何かピンときません…。 …と、その時、遠くから足音みたいなものが聞こえてきました。 それと同時に、体がこわばり、頭に何か思念が入ってきました。 いえ、それは思念と言うには強すぎる思い、それが私の頭の中で強すぎるほどに響き渡ります。 …これは、この龍自体の恐怖? そ、それにしては、強すぎます…! ふらっと、意識が遠のきそうになって、それを必死に耐えて。 こ…これは…きつい、はっきりいってきついです。 …でも、どうして…こんなに? 「どうやら、効果は出ているようだな」 気がついたら、目の前に白いローブのような服を纏った男性が立っていました。 恐らく、先ほどの足跡の主…。 そして、さらに気付いたこと、先ほどからの恐怖、強いものの、その強さが一定でした。 …まるで、作為的に恐怖を感じさせられているような、そんな雰囲気の恐怖。 先ほどの台詞も、恐らくそれを肯定するもの…。 強い思念で頭が犯されてはいるものの、それが一定の恐怖だからか、何処か冷静な頭でこの状況を整理する私。 「はい、この調子でいけば実践時に暴走した時に無力化できます」 …と、思っていたけどどうでもそうではないみたいで、傍に居るもう一人の男に気付かなかった。 「そうか…クックック…」 …どうやら、この体の龍を使って何かやらかそうと言うことみたいだけど…。 …と、思ったその時、急に回りの景色が暗くなって…私の意識がゆっくりと沈んで行くのが分かった…。
急に意識が覚醒する、今の場所は、さっきお母さん達と話した場所のようだ。 …そういえばここは私の夢の中よねぇ…? 何で夢の中で起きたり寝たりするんだろう、私? 「エル、大丈夫?」 どうでも言いことに沈みかけていた思考がその一言によって掘り起こされる。 「おかあ…さん」 眼を開くと、その目の前にお母さんの顔があった。 そして今の私は、横になっている…何かの上に頭を乗せて。 …膝枕だ、お母さんの…。 「はぅ…」 なんだか凄く懐かしくて、優しくて…、数分前まで感じていたあの苦しみがうそのようですぅ…。 「お母さ〜ん♪」 すりすりすりすり…。 「あらあら…」 ちょっと困ったようなお母さんの声、でも、やめられないですよ〜。
恐らく、今の私の顔は真っ赤に違いない、流石に現実に意識が戻って自分のやった事を思い出して…凄く、恥ずかしくて。 「全く…この子ったら」 「はぅ〜〜…ごめんなさい」 うぅ、穴があったら入りたいです…。 「…で、エル」 「はい? …あ、そうだ!」 私は、聞きたい事を思い出して、身体を起こす。 「あれは…あの夢は、一体なんだったの?」 「…それは、私にも分からないわ、でもね、一つだけ、分かっておかないといけないことがある」 「…」 「…世の中の、全ての生き物が分かり合えるわけじゃない、…全く分かり合えないことも無いけど」 「うん」 「だからね、もし貴女が女王になって、貴女の所為でこういうことになる人が、たくさん出てしまうかもしれない」 「…」 正直、考えたいことではなかったが、下手をしたら今回の夢のような状況になってしまうかもしれない。 「でも、もし女王になったとしたら、自分の意見を貫き通して」 「お母…さん?」 それは、矛盾してるんじゃ…という私の言葉を遮って続ける。 「自分が、決めた意見を貫き通して、皆の前でそれを信じ通す…貴女なら、それができると信じてるわ」 「…」 その言葉の重さ、皆の指針になるという意味、それの本当の重さの欠片が、今、ようやく見えたような気がした。 「…無茶なお願いをしていると言うことも、貴女が…私が言った所為で断りにくくなってると言うのも知ってる、でも」 「…私には、多分…いえ、絶対にまだ女王になる資格は有りません」 本当に、私にできるかなんて分からない、だけど…。 「…」 「だから、もうちょっと学んで、もうちょっと成長するまで、待っていてくれますか?」 私は、歩んでいけると思う、あの二人と一緒なら。 「…ええ」 「私は、白龍族のエルとして誓います、皆を導くのにふさわしい、立派な…大人になって帰ってくるって」 to be continued…。
後書き うーむ…(滝汗 後半、言いたい事を出し切れたかどうかかなり不安…2:8か?(ダメじゃん 改めまして、Reason'sFang33話お届けしました〜♪ エルの力に関することもそうだけど、こっちも大事だから…。 次回は、やっぱりエルの力の覚醒になるんでしょうかね?(訊くな …あ、ちなみに、エルが見ていた夢は、リムの夢とは全く関係有りませんので♪ 一応つながりとか設定は考えてあるんですけどね…。 2003/01/08 Vol1.00 公開 |