「…で、お母さんとお義母さんの関係はやっぱり後で聴くことにしておいて…」 エルがそこまで言ってから、一区切り付け。 「お母さん、何故私の夢に入ってきたのですか?」 と、続けた。 「何でって、それは」 「お義母さんの雰囲気で分かります、何か、覚悟みたいなものを感じますから…」 横から口を挟もうとしたファティアの声を遮って話すエル。 「何か、それが何かは分かりませんが、大切なことがあることぐらいは分かります」 「参ったわね、これでも上手く隠してたつもりなのに…、さすがはエルちゃん、ティンクの娘なだけはあるわね」 「…そうね」 感心したように話しかけるファティア、そしてそれに呟くように返事をするティンク。 「エル、私が、エルの夢に訪れたのは、その訳は実は…」 「たっだいま〜♪」 真剣なムードの中で響き渡る声。 その声に思わず脱力して座りこんでしまうエルだった。
白龍族として… 4 封印と解放 「…」 「…」 突然の声に沈黙してしまう一同。 その視線は突然現われた少女に……黒いマントに黒い尖がり帽子に黒いローブといういでたちで、背中に黒い羽のレプリカのようなものをつけた少女に集まっていた。 「…あれ? みんな、どうしたの?」 何で沈黙してしまうのか分からず、でもその原因が自分にあるとは全く思わず首をかしげる乱入者。 「…ケティ…ちゃん」 やっとのことで声を絞り出したファティア。 そう、突然呑気に乱入してきたこの少女はファティアの娘でありエルの義姉であるケティだった。 「いやぁ、さっきまであの人の夢、覗いてたんだけど、凄かったよ〜♪」 何事も無かったかのように続きを話すケティ。 「ケティ、ちゃん?」 「だってだって、あの人って実は人竜族じゃなくて…」 「ケティちゃん!」 「ふぁ、ふぁい!?」 ノリノリで続きを話そうとしていたケティだが、ファティアの突然の大声で萎縮してしまう。 「ちょっとこっちにいらっしゃいな…ケティ」 「え、いや、あの、その…」 何やらその声の雰囲気と以前の記憶から、嫌な予感がしたのか、あとずさるケティ。 エルは今だ沈黙していたが、先ほどまでの沈黙……疲れによる沈黙とは違って、今度は恐怖の沈黙となっていた。 「あ、あの、あたし、何かした?」 「…知らないってのは…罪よねェ…」 何やら意味深なファティアの言葉。 それと同時にケティの姿が徐々に掻き消えて行く。 「え! あ! ちょ、ちょっと待ってよ! 嫌ァ! そ、それだけは〜〜〜!!!」 断末魔の悲鳴に近い叫びを残して消えて行ったケティ。 それと同時にファティアの気配もしなくなった。 後に残ったのは、全く訳がわかっていないティンクと。 「…ケティ…お姉ちゃん、ご愁傷様…」 思わず呟いて祈りをささげるエルだった。
「…はい」 実を言うとエルは、ケティが少し苦手だともいえなくも無い。 その原因は当然、あの性格だ。 確かに、あの性格に助けられることもあるし、決める時は決める人物でもある。 …だが、今回みたいに自分がそういう気では無い時に、緊張した雰囲気をぶち壊しにしてしまうのだけはどうかなぁ…とエルは思っている。 「まあ、ファティアもケティちゃんも居ないから、今のうちに話しても良いかも…ね」 そう呟くティンク。 そしてそれを無言ながらも、見つめる様な目で促すエル。 覚悟を決めたということは、それだけ言いづらいことなのだろう。 「あのね、エル、私がエルの夢に入ってきたのは貴女を確かめる…と言うより試すためなの」 「試…す?」 「そう、白竜族の女王としての資格と素質があるかどうか」 「…そうですか、でも、私には…」 「ストップ、エル」 続けようとするエルを遮るティンク。 「私はむしろ、貴女にその資格があると思うわ」 エルは予想もしない事態に困惑した。 先ほど自分で言ったとおり、エルは自分を白龍族失格だと思い込んでいたので、その反応は当然かもしれない。 白龍族失格どころか、その長である女王になる資格まであるというのだから。 当然、エルには疑問が湧く。 「どうして、私が…?」 と言う疑問が。 「それはね、エル、貴女が他の者を傷つける覚悟を決めたからなの」 「…は?」 あまりに、彼女にとっては予想外すぎる言葉。 「…え? だって、普通長となるものは下々の者を導けるよう良い模範とならなければならないのでは…?」 「確かに、それも必要よ…でもね」 そこでティンクは言葉を区切り、正確な言葉を引き出すかのように考え込む。 「確かに私達は長を目標とするわ、でもね、長は目標となるだけじゃダメなの」 エルの沈黙を促しととって、ティンクは続ける。 「長は、皆も護る役割を果たさなければ成らない…当然、そのためなら自分の気持ちを犠牲にしても」 「…つまり、ほかの人を傷つけることや犠牲にすることを、躊躇わずにできる人ということですか?」 「少し違うわ、躊躇わずにできたらそれは女王になる資格はない」 はっきりと断言するティンク。 「悩んで、悩んで、悩みぬいて…そして出た意見を最後まで何があっても貫き通す…必要なのは、そんな強さなの」 「……」 「だから、女王を頼むのは酷だって分かってるけど…エル、やはり貴女が、女王には一番向いているの。 旅をして、自分が思っていたことだけが真実ではないと知り、傷ついて、それでも強くなれた貴女が…」 その言葉には、重みがあった。 ただ傍観していたものが語れる台詞ではない。 エルは、一つの確信を持った。 「お母さん」 エルがティンクの言葉を遮るかのように、ゆっくりと、訊く。 「お母さんも、そんなつらい思いを…したんですね」 「え…エル、私が、女王だって知ってたの?」 あまりに意外だったのか、かなり驚いた表情で話すティンク。 「ううん、今まで知らなかったけど、でも、お母さんの語りを聞いてて分かった、お母さんも、同じような経験をしてたのだって」 「そう…うん、私も、つらい思いをした事があるわ…エル、貴女と別れなければならなかったときも、つらかったわ…」 「そういえば、何で…」 「ストップ」 言いかけた台詞を遮り、続ける。 「確かにいろいろと聞きたいことがあるかもしれない、でも、今は時間がないんじゃない?」 そこまで言われて、ハッとした。 「私…まだやらなくてはいけないことが有ります、だから…」 「大丈夫よ、女王は、何も今すぐ成れと言うことじゃない」 その言葉を聞いて安心するエル。 「でも、封印した素質を、解放する必要が有りそうね…」 「素質の…解放?」 母親の良く分からない台詞に、首をかしげるエル。 「そう、エルの、あまりに大きくて、収め切れなかった力、それを、封印したのよ、でも、今のエルなら、その力、操れるはずよ」 「……」 エルの答えは、もう決まっていた。 「でも、今の私には、やっぱり必要です、大切な人たちの力になるために」 エルは覚悟をきめて言った。 そして恐らく、母親の覚悟はこれが原因ではないかとエルは思っていた。 それは、辛いか、きついか、分からないけど。 「でも、あの人たちの力になれない事にに比べたら、辛くもなんとも無いです、だから、お願いします、お母さん」
後書き 何度ティンクの台詞でエルちゃんと書きそうになったことか…(苦笑 という訳でReason'Fang32話お届けしました♪ 詳しい話は…また後に、それでは〜♪
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