「…可愛い」

 それは何度目の彼女の呟きだろうか。 もう何回言ったか忘れるほど言ったような気がする。

 無論、その言葉は寝ているリムに向けて放たれている。

 時折寝返りをうち、何やら寝言を呟くリム。

「…可愛い」

 こんなに連呼されているのを本人が聞いたら激怒しそうな気はするが…。

 というか少し涎が垂れそうな表情で呟いていると怪しい事この上ない。

 幸いにもと言うか不幸にもと言うか、それに気付いているのは本人も含め誰もいないのだが。

 だが、そんな呑気な少女をよそに、寝ているリムの表情は、決して明るいものではなかった。

Reason's Fang27話
真実 5




「…ぅ…ぅう…ん」

 と、リムが自力で目を覚ました。

「あ、起きた♪」

「…何でそんなにご機嫌なんだ?」

 何やらご機嫌な少女を訝しげに観察した後。 リムは何やら嫌な予感を感じて呟く。

「さあね♪」

「…」

 溜め息を一つついて、立ちあがるリム。

「さて、続きを見よう」

「ええ」




 どうやら先ほどのシーンから急激に飛んだらしく、周囲の風景が見たことが無いものになっていた。 周囲の豪華さや目の前に有る玉座らしき場所から考えるに、城のようなものではないかと思うが…。

「…自分の記憶とは言え、こうも急激に飛ぶのは止めてほしいな…」

 思わず呟いたリムであった。

 それはともかくとして、リムの目の前にはあの例の博士の他には玉座らしき場所に座った、恐らく彼の上の位に付くで有ろう男がいた。

「ふむ…それでは他の研究者達が子等を開放しようとして革命軍と手を結ぶが、革命軍に裏切られ失敗、その上でクリエル以外の適性を持った子と共に火を放ち自殺と、そう言うわけだな」

「はい」

「ふむぅ…」

 何やら考え込む男。

「マスターの完成自体は後少しですし、私だけでも出来ます、陛下、ご決断を!」

「分かった、後はお主に任せよう」

「ありがたき幸せです」

 博士は敬う様に頭を下げたが、近くにいたリムには、その表情が怪しく歪んでいるのが分かった。

 陛下と呼ばれた男は、遠かった所為で気付いていないようだが。

 いや、もし近かったとしても彼も同じように表情が歪んでいたので気付くかどうか微妙ではあったが。




「…今のは…」

「いや、だから俺に訊くなって」

 少女が言いきる前にはっきりと断るリム。

「…最後まで言わせてくれたって良いでしょ…」

 またいじける少女。

「でも、一つだけ分かったことがあったわ」

 と思っていたらすぐに復帰していた。

「この記憶は…少なくともこの時代じゃない」

「…は?」

 少女の思わぬ一言にちょっと間の抜けた声を出すリム。

「だって、あれ見て」

 そう言って彼女が指差した先、そこには妙なオブジェクトがあった。

 確かにあんなオブジェクト、見た事はないが…。

「あれはただのオブジェクトじゃないわ」

「だから忘れた頃に人の心を読むなっての」

「これぐらいは読まなくても分かるわよ。 それよりも、あれは超科学の産物よ」

「…は?」

 またまた間の抜けた声を出すリム。 というかそんな事を言われてすぐに信じれなかったというか。

「前に誰かに聞いた事があるんじゃない? 君の記憶の中にあるわよ、超科学って言葉が」

 …いや、ちょっと待て。

「超科学って、なんでお前がそれを知ってるんだ?」

「私の知り合いに、熱心な考古学の研究家と超科学の研究家がいて…それで知ってるのよ」

 …どこかで聞いたような台詞だった。 …てか、それはともかくとして。

「超科学をオブジェクトと勘違いしてるんじゃないのか?」

「いえ、それは無いわ、だって、あれ、稼動してるわよ」

「…え?」

 と、その超科学の産物を良く見てみると…。

「…あ、光ってる」

 その本体からうっすらとした淡い光を放っていた。

「でしょ?」

「でも、今たまたま光ってただけじゃないのか?」

「それも無いわ、だって、どんなものでも何もされずに稼動しつづけるなんて事は無いもの」

 …それもそうだが…。

「それに、超科学の中でも大型のものはその傾向が大きいの。 今発掘されたものは殆ど意味をなさないものが多いの」

「それを稼動させる技術もない…と」

 そう何とか返しながらもリムは頭痛を感じていた。

「って事は何か? 俺は過去から来たとでも言うのか?」

「いえ、それも考えにくいわ、私だって詳しく知っているわけではないけど、多分過去の技術じゃあんなものは無いはずよ」

「それじゃ俺は何者なんだよ…」

 疲れが取れている所為か、言ったことは頭に入っていく。 だが、理解できるか、納得できるかと言った話しはまた別物だ。

 それは、今までの自分の生を否定するのとほぼ同じだと、リムは考えていたからだ。

「でも、今まで見てきた記憶も本物よ。 君が生まれたと思ってた村で、足を骨折したのも、今まで旅をしていたのも…」

「…とりあえずもうそろそろ続きを見ないか?」

「…見るの?」

 恐る恐ると言った感じで聞いてくる少女。

「大丈夫だ、俺なら」

 と言ってのけるリム、それも虚勢であることは明らかだが。

「分かったわ…」

 そう言った瞬間に次のシーンに切り替わった。

「ここで…大体3年目位ね」

 と、彼女が言った瞬間、爆音があたりに響く!

「うわ!」

「きゃぁ!」

 目の前も光に包まれる。

「もう慣れたとはいえ、本当に唐突な始まりだな…」

 思わず呟いてしまうリムであった。

 …しばらく経っても、光が収まる気配は無い。

「もうちょっと前に戻ってみましょうか、これじゃなんで爆発が起こったか分からない…」

「…だな」




 リムの返事と共に急に景色が変わった。

 やはりその場所は見覚えの無い場所ではあるが、先ほどの城のどこかではないかと思われる。

 だが、その部屋には壁が無く、その代わりに四方をパイプのようなもので覆われていた。

 そしてその全てのパイプは、何やら目の前置いてある巨大な機械らしきものに繋がっていた。

 そして、その機械の前で博士が何やら機械を操作しているようだ。

 その後ろ…幼いリムの横には例の陛下と呼ばれた男がいた。

 何やら凄い怪しい雰囲気である。

「例えモンスターで有ろうと人間であろうと、適応者と使用者以外の全ての力を吸い取る力、これを使えば…」

「はい、全世界が、いや、神でさえも陛下の前にひれ伏すでしょう」

 博士のその言葉を聞いて満足そうにうなずく男。

「結局はそれが目的かい」

 呆れたように呟く今のリム。

「なんていうか、何でこんなに支配欲が強い人が多いんでしょうね?」

「…まあ、俺はされる側が望む支配なら別に良いと思うが、本人のためになるかどうかは置いておくとして」

「…変わった意見ですね」

「そう、だな」

「まるであの人みたいな…」

「ん? なんか言った」

「え、あ、いえ、別に」

 そうこう今のリムと少女が話していると、男が機械のほうに近づいて行った。

「理を壊す機械、これがあれば我が王国は永遠に王者に君臨するであろう」

 と、男が言ったと同時に部屋全体がグラッと揺れる。

「どうした?」

「大変です! 革命軍が攻めてきました!」

 博士が問い掛けると同時に部屋のどこからとも無く声が響いてきた。

「なんだと! 機兵隊はどうした!」

「それが…全く動かないんです、うわぁ!」

「おい! どうした!!」

 悲鳴を最後に声は聞こえなくなった。

「くそ…いったいどうなっているのだ!」

 苛立たしそうに叫ぶ男、それと同時に部屋に入ってきた女性、それには見覚えがあった。

 そう、リムを最も可愛がっていた研究者だった。

「あれ? 確かあの時に死んだはずじゃ…」

 思わず呟く今のリム。

「ええ、そのはず…よね?」




 女性が手に持っていた銃を構える。

「ふふ…まだ生きていたものがいたのか…」

「もうこの城は包囲されています! おとなしく降参しなさい!」

「ふっふっふっ…ふあっはっはっ!」

「何がおかしいのです!?」

「お前等も、いや、生き物全てが、この『理の牙』の前には無力なのだよ!!」

 陛下と呼ばれた男はそう勝ち誇るように言った。




「…ん? ちょっと待て、今、『理の牙』って…」

「ええ、今までの記憶の中でも、この頃の記憶でも何回か出てきてたわね」

 リムの呟きに答える少女。

「…気付かなかった」

 ちょっと落ち込みながら答えるリム。

 まあ、自分のことでショックなことが判明しかけているのだから無理も無いと言えば無理も無いが。

「…そう言えば、『理の牙』の実態は見たことが無かったけど、超科学の産物ってことで間違いはなさそうだな…」

 …なんだか、驚くことが多すぎて、もうちょっとやそっとのことでは驚かなくなってしまっていたリムであった。

「…あれ? でも『理の牙』もここで作られたとしたら、それじゃこれは50年以上前の過去ってことか?」

「なんでそうなるの?」

「いや、『理の牙』の話しが言い伝えられるようになったのは50年くらい前の話しだから…」

「…私には、なんとなく結果が見えてきたわ」

「…え?」

 二人が話をしている間に何やら機械のあたりに力が満ちていくのがわかる、同時に体が熱くなるような感覚をリムは感じた。 …それは、魔法を使った時の感覚と類似していた。

 同調、しているの…か?

「私が、これのことを何も考えずにいたと思いますか?」

 女性が、銃を構えつつそう言い放つ、同時に、幼いリムの周囲に何かが張り巡らされるような感覚!

「…なるほどな、適性因子を押さえたつもりか」

 博士がそう呟く。 だが、それに敗北の感は無かった。

「わしが、そのことを何も考えずにいたと思うのか?」

 と、博士が言うのと同時に、急激な脱力感がリムを襲った。

「…っ!」

「何、これ…!」

 正確には、幼いリムに何かをしたらしいのだが、それがリム達にも伝わってきているようだ。

「や、やめ…ろ…」

 過去に同じ体験をしているからだろうか、リムに沸きあがってくる激しい嫌悪感。

 体の内から、何かが引き抜かれていくような感覚…。

 そして、しばらくしてその感覚が収まる、リム自身もフラフラになりつつ目の前の光景を見た。

 リムの目の前には光の珠のような物。 そして、それが博士の方にふわふわと飛んでいった。

 そして、その珠が人の形に姿を変えてゆく。

「あの子って…まさか、君の記憶にいた?」

「…ああ、間違い無い」

 リムはその光景を見て逆に冷静になった。

 恐らく、余りの衝撃に思考が回らなくなったと言ったほうが正しいが。

 紛れも無く、その珠は…リムの親友、ウィルの姿に変化していた。

to be continued…。




 後書き
 …長いッす(汗 いきなり何を言ってるんだとか思うかもしれませんがまだまだリムの夢編が続くReason'sFang27話をお送りしました♪
 なんというか…もうちょっと長くなりそうなので途中で折ってみましたが…次のが中途半端にならないと良いですね(マテ
 はい、頑張って執筆するのでもうちょっとお待ちください。

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