「うぅ…ここ、は?」

 エルが目覚めた時、先ほどとは景色が変わっていた。

 基本的な雰囲気は変わらないものの、通路はなくなっていた。 いや、そのほかの部屋の入り口もなくなっていた。

「転移…でしょうか?」

 エルはそう呟いた。 他の人達もいなくなっていた。

「大丈夫でしょうか…皆さん」

 こういう時でも自分より先に他の人を心配するのはエルらしかった。

Reason's Fang20話
秘められた罠 エル編




「うーん、どうしましょうか…」

 皆さんともはぐれてしまいましたし、余り心配をかけるわけにもいきませんし…。

 でもどうしようもなさそうですね…。 とのんきに考えているエルだった。

 …と。 何の前触れもなく周囲が光に包まれる!!

「え、な、何?」

 慌てるエル。 そして光が収まるとそこには、5体位のゾンビが取り囲んでいた!

「ゾ、ゾンビですか…?」

 とりあえず杖を具現化するエル。

「うー…あー…」

 うなりながらちょっとずつ近づくゾンビたち。

「うぅ…怖いですぅ…」

 とりあえず手近なゾンビを杖でぶん殴ってみるエル。 ぐちょ、と音を立てて杖がゾンビにめり込む。

「はぅ…この感触嫌ですぅ…」

 嫌悪感に包まれた声で呟くエル。

 どうやらエルの中では既に死んでいるものと生きているものの間に罪悪感の境目があるらしい。

 とりあえずエルは杖を振りまわして包囲に境目を作り、包囲の境目から外に脱出し、魔法を詠唱する!

「浄化の光よ、降り注ぎて呪われし定めに縛られし者たちに安息を! ターンアンデット!」

 詠唱が終わると同時に杖の先から光が降り注ぎ、周囲にいるゾンビたちを照らす!

 その光を浴びたゾンビたちはぼろぼろに崩れ落ちた!

 残りは直撃を浴びなかった2体!

「癒しの力よ、我に宿りて我が認めし者に祝福を! エクスヒーリング!!」

 エルがそう詠唱をすると、ゾンビたちを淡い光が覆う!

 ゾンビたちの怪我は徐々に回復していったが、急にゾンビたちの肉体が崩れ落ちた!

 回復と解呪、同時に行える魔法を使うことにより、呪いを解き、ゾンビたちを存在できなくしたのであった。

「ふぅ…」

 一息ついたところでまた周囲が光に包まれる!!

「えぇ!? またですか!?」

 そして光が収まると今度はゾンビと言うより、生きたまま操られているかのような雰囲気を持った人間が一人現われた!

「…ぇ」

 動揺するエルに向かってナイフを投げつけてくる!

「きゃ!」

 何とかそれを避けるエル。 だが、手出しが出来ない!

「どうしましょう…」

 どうしてもエルは敵を傷つけることができなかった。

 相手は操られているだけ、術が解ければまだ生きることが出来るかも知れない。

 そう考えるとエルには攻撃は出来なかった。

 だが、敵は容赦なくナイフを投げつけてくる!

「…もう…やめて! 大地に潜みし者よ、彼の者に休息を与えよ! アースバインド!!」

 エルは叫んでから詠唱を開始する! 地面より伸びてきた魔力の蔦が敵を地面に絡み付ける!

「ぅ…ぁ…」

「はぅ…」

 それでもどうしてもエルは罪悪感を振り払うことができなかった。

 …でも、ここで死ぬわけにはいかない、ウィルさんに、タロンさん、アルメリアさん、それにリムさんが待ってるんだから! …でも…。

 エルが考えているうちに魔力の蔦の戒めが解け、敵はナイフをいくつも投げてくる!

「はう〜〜〜!?」

 悲鳴(?)を上げながらそれらを避け、杖で打ち落とすエル。

 だが、敵も次から次へとナイフを投げつけて来る。 一体何本持っているんでしょうか…。

 と、その時。

「…………テ…レ…」

「え?」

 何かが聞こえたような気がして立ち止まろうとして、不可能だと思い逃げ回るエル。

「い、今のは?」

 訊いても答える者がいないが、それでも訊いてしまうエル。

「……ロ………レ…」

「ま、また!?」

 叫んでから、杖で投げナイフを叩き落すエル。

 でも、今の声って心に響いてくるような、そんな感じでしたね…。 と考えるエル。

「でも、本当にどうしましょう…」

 正直な話し、どうしようもないような気がしてきたエルであった。 と。

「…コ…シテ…レ…」

 今度ははっきりと聞こえた。 まさか…。

「ころして、くれ?」

 エルはその言葉を聞いて複雑な気分になった。

「殺してと、望んでるの?」

 立ち止まり、敵に話しかけるエル。 敵も動きを止めた。

「本当に、それで…いいの? 生きれるかもしれないんですよ?」

 表情に悲しみを浮かべて問うエル、敵は何の反応も返さない。

「…」

 私は、どうするべきなんですか? リムさん、…お母さん…。

「…凍りし時の狭間にたゆとうものよ、かの者の動きを止めよ」

「アクトストップ!」

 エルは無表情で詠唱を唱える。 エルから放たれた光弾が敵に当たり、敵の動きを止める!

「…母なる大地よ、我が声に答え、震えて沈め、哀れなる者を飲み込め、哀れなる者に、死の安息を…与えよ!!」

「アースバレット!!!」

 さらに詠唱が続く。 そして、詠唱が終ると大地が大きく震えるような気がした。 そして…。

 ズドオオォオォォ!! と大きな音を立てて敵の地面が陥没する。

 そして、その頭上に大きな岩…いや、陥没したはずの地面が出現した!!

 ドゴォォォ!!!

 敵は、その大地に押しつぶされた。

「…」

 エルは何も感じていなかった。 いや、感じれなかった。 そして、気が遠くなっていく…。

 リムが戦いを終え、数分した後、リムがいる部屋の一角に光が立ち上った。

 そして、光の柱が消えた所に残っていたのは…。

「エル?」

 だが、その表情は消えているような気がした。

「…エル?」

 もう一度問いかける。 エルはゆっくりとこちらを向く。

「リム…さん」

 ゆっくりと、エルが反応する、そして。

 リムにしがみついてきた。

「うぅ…えぐっ…はぅ…」

「…エル」

 さっきから同じことしか言ってないなと思いつつエルをぎゅっと抱きしめるリム。

 リムには何が起こったかはわからなかったが、こうすることによって彼女が楽になるなら…と思っていた。

to be continued…。




 後書き
 追記(02・10・21)  すみません、なぜか普通に書き忘れてました(汗
 まあ、特に書くこともないので今回はパスで…(ぇ 
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