リムが薙ぐウェルチをタロンが打ち払う!

 タロンの遠隔攻撃をリムが切り払う!

 リムのウェルチとタロンの剣が高い音を立ててぶつかり合う!

「ちっ…」

 リムは舌打ちをしながらウェルチを構えなおす。 激しい戦いにも関わらずリムもタロンも傷一つ付いていない。 それから考えるに…。

「タロンの奴、手加減してやがるな」

 リムはそう言う結論に至った。




Reason's Fang16話
リムVSタロン2




 だが、あれだけの殺気を放てるなら、ありえない話ではなかった。

 恐らく、リムよりも遥かに多くの場数を踏んでいることは間違いない。

 それも、リムの想像のつかないほどの修羅場も有ったはずだ。

 そう考えると明らかにリムに分が悪い。

「…けど」

 リムには良く分からない部分もあった。 何故本気で戦わないのか?

 タロンみたいな類の人間だとこういう時は一気に終わらせそうなのだが…。

 …それとも、俺を試してる? …何故?

「どっちにしても、やるしかないんだけどな」

 そう呟き、ウェルチに魔力を篭める。 同時に、右手にも意識を集中させ、魔力を溜める。

 詠唱無しの魔法だ。 これはまだ試したことはないが、今なら失敗する気がしない。

 溜め終わると同時にタロンが駆け出す! リムもあわせて駆け出し、右手を突き出す!

 右手から火球が生まれ、タロンに襲いかかる!

「!」

 だが、同時にタロンも空いている手で魔法を打ち出していた!

 リムは咄嗟に右の方に飛びのく、同時に、リムがいた場所に小さな風の刃が吹き荒れる!

 タロンも、リムが放った火球を打ち消して横に飛ぶ。

 まさか、相手も同じことを考えていたとは…。

「拙いな…」

 リムはそう呟いた。




 決め手がない、それが今のリムに言えることだった。

 方法は二つ、意表を突き、タロンの防御を解くか、タロンの防御を上回る攻撃を放つか。

 ただの力任せじゃタロンを傷つけれないのは今までの戦いで分かった。

 あの暴走を使えばタロンの防御を上回るかもしれないが、危険だった。

 となると、意表を突くしかないのだが…。 その意表を突く手段がなかった。

 今の攻撃も、相手に使えるとばれたら意表を突くことは出来ない。

 かと言って、他に手段が思い浮かばなかった。

 何かないか、そう思ってリムは腰に下げているアイテム袋をまさぐってみる。

「?」

 するといれた覚えのないものが手に当たった。 …コレは?

 そして、リムの頭の中にある作戦が浮かび上がる。

 だが、リムがタロンから注意を外している隙にタロンが魔法を詠唱する!

「炎よ、契約にしたがい敵を討て! 風よ、炎纏いて敵を討て!」

 二つの属性を合わせた魔法! しかもかなり詠唱が早い!!

「フレイムストーム!!」

 タロンの詠唱と共に炎を纏った風がリムを逃げ場をふさぐように襲いかかる! 

「…ッ!」

 リムは短剣に魔力を篭める!

「風荒剣!」

 炎の風の一点に向かって風荒剣を放つ!

 炎が掻き消えるほどには至らないが、炎の隊列が崩れる! その崩れて炎が弱まった場所にリムは飛びこむ!

 考えているひまはなさそうだ、次の一撃で決めないと…!

「炎よ、敵を包み、焼き払え! 雷よ、我が意思に従い炎に纏え! エスクプロード!」

 詠唱が終わると同時にリムは避ける、そこに、火球が出現し爆発する!

「水よ、全てを押し流せ! 氷よ、敵を打ち砕け! フラッド!」

 タロンの詠唱により生まれでた水が、氷と共にリムを襲いかかる!

 かなり詠唱が早い、本気を徐々に出してきたのだ!

「風の鎧よ! 我を護れ! ウィンドシールド!」

 リムは詠唱をする、同時に、リムの前に見えない壁が立ちふさがる!

 …一瞬の隙をつかないとタロンには勝てない、避けてる暇は無い!

 やったことは無いが、成功させてみせる!

 リムはアイテム袋からあるものを取り出し、腰にすえつける。

 それと同時に風の壁が氷水に押し流され、リムを氷水が襲いかかる!

「ぐあ…っ!!」

 押し流されそうになるが、何とかこらえる、そして、タロンがいたほうに駆け出す!

 タロンはまたも魔法を詠唱していたが、こちらを見て詠唱を止める!

「っ…せい!」

 同時にリムは手に持っていたウェルチをタロンに投げつける! 詠唱をしていたためタロンは避けきず、ウェルチがタロンを掠める!

「…!?」

 同時にタロンの顔が驚く!

 リムはウェルチに魔法を中和させる魔法を掛けていた。 それが一時的にとはいえ、タロンの防御を中和する!

 同時にリムは、腰につけていたあるもの…短剣を取ってタロンに突撃する!

 リムは短剣に篭めれるだけの魔力を短剣に篭める!

「…加速撃!!」

 リムは短剣を振りながらタロンの横を通りすぎる!

「ぐぁ…」

 タロンはそれを避けきれず、胸に傷を負う!!

 同時に、力に耐えきれなくなった短剣の身が砕け散る!

 リム自身も、バランスを崩し地面に転がり込む!




「ど、どうだ?」

 転がりが収まり、すぐに体勢を立て直すリム。

「くっ…久しぶりだな、怪我を負うのは…」

 少し苦しげ…というか悔しげにタロンはそう呟く。 同時に、淡い光がタロンを包み込み、タロンの傷が癒えていく!

「…嘘、だろ…」

 リムは思わずそう呟いた。 詠唱も無しに回復魔法を使うのは反則と言うものではないだろうか?

 ふと気付いてリムは自分が武器を持っていないことに気付く。

 ウェルチはタロンの傍に落ちているし、短剣は砕け散ってしまった。

「参ったな…」

 あと対抗する手段と言ったら…魔力を暴走寸前まで発動させること。

 それは前にもやったことがあった、だが、最後はいつもあの声で魔力を暴走させてしまい、結果リム自身が瀕死になったこともある。

 リムは、怖かった。 声が怖いのかもしれないし、自分を失うかもしれないと言うのも怖かったが、何より、ウィルにエルを傷つける可能性があるのが怖かった。

 …いや、リムは本当は気付いていた、あの声の正体に、そして、ウィルやエルを傷つけない方法も。

 …結局は、自分が弱いから、声を使って自分を正当化しているだけだと言うことに。

 あの声も、自分の意思だと言うことに。

 力を操れなく、力に支配されていることに。

 だから、リムは『理の牙』を求めた。 結局は、弱い自分が赦せないから。

「…でも」

 心の内から、何かが…いや、自分が囁く。

 ラクニナレ、チカラヲカイホウシ、スベテヲステテシマエ…と。

 …だが、ここで楽になってはいけない。 まだ終わるわけにはいかない。

 正直な話、まだ生きたりない、自分の生を終わらせるには早過ぎる。

 それ以上に、負けたままなのはいやだ!




 どこかでは気付いていたのかもしれない、『理の牙』を求めるには強くならなければならないことを。

 …いや、弱い自分も受け入れることを。

 そして、今がそうなのかもしれないと言うことを。

「例え、すぐに受け入れるのは無理でも…」

 何かを振りきるように呟く。

「もう、逃げるのは…嫌だ!」

 リムは集中を始める。 内に眠る魔力を引き出すかのように。

 ドクン…ドクン…。 と自分の鼓動が聞こえるかようだ。

 それでも、さらに深く自分の力を引き出す。

 体が熱くなってくる…! 同時に、いつもの何かが…いや、自分がささやく感覚。

 いつもの誘惑、だが、耳をつぶるのではなく、聞き流す!

 そして、何かが自分の中で爆発する感覚!




 ゆっくりと目を開くリム。 目の前には少しだけ驚いた表情の後、納得したような表情を浮かべるタロン。

 …ひょっとして、タロンは全て知った上で立ちふさがったとか? そんな考えがリムに浮かぶ。

 …まさか、と思おうとしたがどうしても思えなかった。

 だが、そんな考えとは違い、タロンは再び詠唱を始める! リムも、詠唱を始める!

「常闇の力よ! その力目覚めさせ、我が敵を包み、飲み込め!」

「我に宿りし炎よ! 輝ける光纏いて敵を焼き払え!」

「ダークイリュージョン!!」

「シャインフレイム!!」

 タロンの放つ闇とリムの放つ炎がぶつかり合い、対消滅を起こす!

 それを見届ける前に更に詠唱を始める!

「魔導の力よ! 我が誓いの元に敵に制裁を!!」

「我が内に眠りし真なる炎よ! 我が声の元敵に裁きを!」

「インパルスショック!!」

「インフェルノ!!」

 タロンの魔術とリムの地獄の炎がぶつかり合う!!

 ズドオオォォォンン!!! と大きな音を立てる!

「ぐ…ぁ…!」

 その声を立てたのはタロンのほうだった。 リムのインフェルノを完全に掻き消すことができずに、熱で膝を付く。

 リムはそれに追い討ちをかけようとしたが、同じく地面に膝を付いた。

「くぅ…」

 今までの戦いの所為で、魔力を使い果たしてしまったようだ。 頭がクラクラし、体が自由に動かない感じがする。

 そうしている間にタロンが復帰する…。

「ちっ…」

 どんなに動かそうとしても身体は少しも動かない。 これまで…か?

「アルメリア」

 そんなリムの考えをよそにタロンはアルメリアを呼びかける。

「エリクサー、取ってくれ、2つな」

「あ、はい!」

 そう返事してからタロンに液体の入った小瓶を渡すアルメリア、そしてリムに近づいてくるタロン。

「とりあえず、これを飲んどけ」

「…どうして?」

「これだけの実力なら足手まといにはならないだろう…ほら」

 そういってリムに小瓶を渡し、タロンも一気に飲み干す。

「…これはクランベリー味か」

 ほっとした感じでそう呟くタロン。 リムも液体を飲み干す…。

「…ぐぁ、ゲホッ!! ゲホッ!!」

 …物凄い味に思わずむせてしまうリム。

「これの…げほッ、どこが、クラン…ごほッ、ベリーだよ」

「…はずれ、だな」

 哀れむように呟くタロン。

 リムは口の中に…なんというか、防衛本能が過剰に働くような、本能的に拒否するような、そんな味が広がっていた。

「…ジョセフィーヌ味…」

「へ?」

「いや、なんでもない。 ただ、それが一番効くだけどな」

 タロンの言うとおり、先ほどまで立つ力も残っていなかったが、一気に回復したという感じだ。

「でも、何であたりはずれが…」

「…聞くな、答えるのが虚しくなる」

「…」

 聞きたかったが、なぜか聞けないリムであった。


to be continued…。




 後書き
 どうもです、Reason'sFang16話お届けしました〜♪ 
 とりあえずリム覚醒…とはちょっと違うけどかなり実力がアップしたと思われます
 そして、謎のジョセフィーヌ味…これがどういうことかは後々話すと思います。
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