「どう言う、意味です?」
ウィルがそう訊く。
「ここから先は、間違いなく危険だ、今までのモンスターの比じゃない」
「でも!」
「…お前達は、3人がかりでおれを倒せるか?」
そう言ったタロンの殺気が、大きく膨れ上がる。
まるで、今まで隠していたのが嘘だったかのように。
「…ッ!」
「もし敵いすらしないなら、無駄死にをしに行くだけだ、やめておけ」
感覚が凍る、そんな感じだった。
全ての感覚が、タロンの殺気の所為で麻痺したかのような感覚。
心臓の鼓動がやけにうるさく耳に付く。
「それとも、おれを倒して行くか?」
しゃれになっていない、そう思わざるを得なかった。
間違いない、タロンは今まで出会った敵味方の中で最高の実力を持っている。
今までの戦いも、手加減していたのは間違いない。
「さて、どうする?」
正直な話、戦いたくないと言うのがリムの本音だった。
3人で挑んだとしても勝てるつもりがしないのだ。
「…でも」
リムは、顔を下げたまま、静かに、短剣を抜き払った。
「もう、引くわけには行かないんだ」
誓い、もう、引くわけには行かない。
「タロン、悪いけど」
リムに希望を託して亡くなった者も居る。
リムを待っている者も居る。
何より、もう、逃げたくない。
振りきるように、リムは顔を上げ、武器を構えた。
「退いて、もらうよ」
Reason's Fang14話
凍る時の高原の洞窟
「…やっぱりか」
リムが後ろを見ると、ウィルも、エルも、武器を構えていた。
「リムが行くって言うんなら僕も行くよ」
「…私も、負けてられません」
「ウィル、エル」
リムはウィルとエルに向き合うと、こう言った。
「悪いけど、手を出さないでくれ」
「リム!?」
「リムさん!?」
ウィルとエルの声がかぶる。
その声は、明らかに驚愕を示していた。
「どうして!?」
「無謀です! リムさん!!」
リムに詰め寄るウィルとエル。
「大丈夫、死ぬつもりはないから」
そう言って再びタロンを振りかえり、改めて構えるリム。
…これは、俺自身の決着だ!
「いいのか?」
「ああ」
「…分かった」
そう言って、剣を取り出すタロン。
「行くぞ…!」
そう言った瞬間、その場からタロンの姿が消える!
「…ッ!」
リムは咄嗟に短剣を右の方向に振る!
ガキィィィ!!
「良く分かったな」
そこには剣を振り下ろそうとしていたタロンがいた。
短剣と剣がぶつかり音を立てる!
ぶつかった反動を利用しつつバックステップで距離を取る。
それと同時に、剣に魔力を篭める!
「風荒剣!」
「剣衝!」
リムの振るった風の刃とタロンの振るった魔法の刃がぶつかる!
ドゴォォ!!
その音が立ち、爆風が起こると同時にリムは爆風のほうに駆ける!
爆風を通りぬけリムは視界にタロンの姿を捉える!
「加速撃!」
ガキィィィ!!
リムがダッシュしながら放った一撃はタロンの斬撃に弾かれる!
勢いが付き、タロンを通りすぎた体を無理矢理捻りながら、リムはさらに攻撃を繰り出す!
「風衝・旋風!!」
剣から幾重もの真空の風が放たれ、タロンを切り裂こうとする!
「峰風!」
タロンは剣を構えて叫ぶ! 同時にタロンの周りに強烈な風が吹き荒れ、真空の風はかき消される! だが、風が収まると共に…
「炎龍牙!」
リムの短剣に纏われた炎がタロンを狙う!
「はあっ!」
炎を剣で切り裂くタロン、だが!
「それッ!」
ガキィィンン!! という音を立ててタロンの剣が宙を舞う! リムが加速撃を使い、タロンに肉薄していた!
リムは剣を弾いた状態から跳躍する! 剣に体重を込める!
「龍吼!」
その刃はタロンに当たり、それで戦いが終わるはずだった…が!
ガキィィ!! まるで鉄とぶつかるような音、だが、その刃がぶつかったのは紛れもなくタロンの腕。
だが、タロンの腕は切り落とされることもなく、刃を受け止めていた!
「…んな、ッ!」
そしてリムは、タロンの拳に弾き飛ばされた!
「一体…何が」
今の光景が良く見えた訳ではないが、リムの短剣がタロンを切り裂くはずだったのはエルも良く分かった。
だが、結果はリムは弾き飛ばされ、タロンは無傷。
「トレリア流格闘術…って、知ってる?」
アルメリアがそう問う。
「え、確か…100年ほど前にトレリア地方で使われていた格闘術で…確か非力なものが対抗するために魔力を使って…え?」
「知ってるみたいね」
エルの答えに満足そうにうなずくアルメリア。
「タロンさんが使ってる武術、間違いなくトレリア流よ」
「でも、自分の肉体を護るためにも魔力を使わなくちゃいけないから凄い魔力を消費するのでは…だから廃れた武術でもあったはずですし」
「因みに、1時間くらいは軽く持つわよ。」
そのアルメリアの一言にエルは絶句した。
普通の人間が完全なトレリア流格闘術で戦おうものなら、10分と持たないであろう。
つまりそれは、タロンの魔力の底知れぬ豊富さを物語っていると言うことだ。
タロンさんって、本当に人間族なんですか? エルはそう問いたくなった。
今まで確かにタロンは不思議な所が多すぎる、まあ、人間ならありそうな不思議さだったが…。
でも、これは人間とかそう言う領域を越えているような気がする。
が、エルはそれを問えなかった。
「でも、リム君もやるわね、タロンさんにトレリア流をいとも簡単に出させるんだから」
「落ち着いてるね、アルメリアさん」
この台詞はウィルだ、エルにはウィルも落ち着いているように見えたが…。
「まあね♪」
…この人はそれまでにタロンを信じているのでしょうか? でも、そうじゃなくちゃタロンさんにつりあわないですね…。 エルはそう自分の中で自己完結していた。
リムは、刃がタロンを切り裂かなかったことにも驚いていたが、それは直前に魔力らしき流れをタロンに感じたのでそれが影響しているのだと思った。
だが、リムにはそれ以上に驚いていることがあった。 自分のことだ。
とりあえずリムは立とうとした、だが、まだ少し上手く体に力が入れられない。
「…っ」
少しふらふらしながらもリムは立ちあがった。
そして再び短剣を構える。
「まだまだ…」
それを見てタロンは弾き飛ばされた剣を拾い上げる。
同時に、タロンの姿がまた掻き消える!
リムは、タロンが居た方向に駆ける!
「加速撃!」
「…ッ!」
リムは短剣を振るう!
ガキィン! と音を立ててタロンとリムの武器が当たる! リムは再び短剣を振るう!
ガキィン! カキィ! ガキィィ! 何回か攻撃を繰り出すが、全て弾かれる。
「くッ」
一度距離を取るためにバックステップをするリム。 が。
「はッ!」
「ちぃ…」
回し蹴りを放ってくるタロン。 ちょっとバランスを崩しながらも何とか避けるリム。
地面をあえて転がり、タロンとの距離を取りすぐに立ちあがるリム。
お互いに警戒したまま少し時間が止まる…。
「…」
「…」
先に動いたのはリム! 武器を構えなおし、魔法を詠唱する!
タロンはそれに合わせるようにリムに向かってくる!
「我に宿りし血よ、我に力を! メルクローム!」
詠唱を終えると同時に紅い光がリムを包み込む。 手や足に力がみなぎるのを感じる。
紅い光が収まると同時にタロンが剣を投げつけてくる!
剣で弾くことも出来ずに横っ飛びで避けるリム。 そこに、タロンが肉薄してくる!
「てやぁ!」
タロンの拳の攻撃を短剣で弾く、余りの衝撃に手が痺れる!
…なんつう攻撃だよ…。 思わず心の中で毒づくリム。
同時に、剣に魔力を込め、タロンを迎え撃つ!
「烈!」
「覇刃!!」
拳と剣がぶつかり、お互いにはじき合う!
「ッ…!!」
リムは今までにない興奮を覚えていた。 強敵と戦う悦び…いや、それ以上のものを。
to be continued…。
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2003/08/11 Vol1.00 公開