「ごめんなさい、リム君、ウィル君、エルちゃん」



 とりあえず泣き止んで落ち着いたアルメリアがリム達に謝ってきた。



「いえ、気にしないでください、アルメリアさん」



「そうだよ、気にしないほうが良いよ」



「ああ、俺も、分かる気がするし…」



 もしキュリ姉が、いや、例えウィルでもエルでもけなされたら、あそこまでとは言わないが俺もキレそうな気がする。



「ごめんなさいね、あういう性格の人ってあんまり…」



 あんまり好きじゃないどころかかなり嫌いのような気がする。



 だから、ゲルグにタロンのことをちょっとけなされただけでも、拒絶反応が出てしまったのだろう。



Reason's Fang14話
凍る時の高原の洞窟














 再び一行は雪原を歩いていた。



 周囲の風景は相変わらず殺風景と思えるほどに白一色だ。



 やはり歩きとおしてはいるが、ぜんぜん景色が変わらないさまを見てると方向感覚がずれてくるんじゃないかと思ってしまう。



 だが、方向自体はこっちであっているはずだ。



 …と。 殺気を感じ、リムは短剣を取り出す! 同時に全員が武器を取り出したようだ。



 敵はグリズリーが3匹、それに鷲系のモンスター2匹に大蛇系のモンスターだ。



「ちょっと数が多いな…」



 リムはそう呟いてから一番近くにいるグリズリーに突撃する!



 リムめがけてグリズリーが爪を振り下ろす! だが、リムはそれを軽くよけ、短剣を薙ぐ!



 短剣はグリズリーの腕を掠める! リムは後ろに飛び退き、剣を振りかざす! 振りかざした剣から赤い光が漏れる!



「炎龍牙!」



 振り上げた短剣を中段に構えると同時に短剣の刃から漏れた光に着火したかのように剣が燃え上がる!



 グリズリーに肉薄して短剣を薙ぐ! 紅く燃える刃がグリズリーを切り裂く! そして。



「龍吼!」



 グリズリーに向かって突きを繰り出す! 刃がグリズリーに刺さり、刃に残った力がグリズリーを内側から粉砕する!



「まずは一つ! っと」



 短剣を振るうと同時に鷹が急降下してくる! 咄嗟にリムは横に避ける!



 そこにタロンが剣を振るう! だがその刃は上空に逃げることで避けられてしまう。



「逃すかッ!」



 振り下ろした剣ごと、体を跳躍させる!



「双斬・空!」



 思いっきり振り上げた剣は鷹の体を切り裂く! タロンは軟着陸をする。



「ふぅ」



 とりあえずこれで2体、だが、相手も警戒しているのか簡単に近寄ってこない。



「氷の刃の洗礼を我が敵に与えん! アイスカッター!」



「大地よ、力持て敵を打て! ランドブラスト!」



 ウィルとアルメリアの詠唱が同時に炸裂する! 氷の刃が鷹を切り裂き、岩がグリズリーを打ち倒す!



「まだまだ! 雷よ、敵を討て! ライトニング!」



 ウィルがさらに魔法を放つ! 雷がグリズリーを痺れさせ、動かなくする!



 その隙を付いてリムがグリズリーを切り裂く!



「よし!」



 残るは大蛇のみ、と、アルメリアが。



「闇の精よ! 我に敵対しおろかなる者に闇の洗礼を与えよ! ダークエナジー!」



 アルメリアの手から放たれた闇の塊が大蛇を討つ! そのまま大蛇は動かなくなった。












「ふぅ…」



 とりあえずあれから3連戦する破目になってしまい、今は休息しているリム一行。



「昨日はこんなに連続では襲ってこなかったのにね…」



「あるいは…『理の牙』に近くなったから、なんでしょうか?」



 そう愚痴るウィルと、自分なりの推論を立てるエル。



「それは、どうだろうな?」



「え?」



 その推論に否定的なタロン。



「今まで襲ってきた動物は、どれも純粋におれ達を襲おうとしてたような気がする」



「純粋に?」



「ああ、ようは生きる為ってところか? だが、『理の牙』を護るとなると、『理の牙』に操られてやっている可能性が高くなる」



「う…ん?」



「はい…」



「そうすると生きるために狩るということも出来なくなるんじゃないか?」



「あ」



 確かに、言われてみればそんな感じがするとリムも思った。



「もし『理の牙』を護るのがおれ達を襲う理由なら逃げたりすることはないと思う」



 今まで雪原を歩いてきたが、全てのモンスターと戦ってきたわけじゃない、中には見逃してきたモンスターだって居る。 だが、『理の牙』に操られているならば、逃げることが出来なくなるはずだ。



「まあ、野生のモンスターが『理の牙』が眠ってる洞窟に住んでいる可能性もあるし、全てのモンスターが操られているとも限らないから断言は出来ないけどな」



 結局話はそう締めくくられ、一行は再び歩くことになった。












「…感じが変わった」



 きっかけは、タロンのこの台詞だった。 確かにそう言われてみると、上手く言えないが周りの雰囲気が変わったような気がする。



 だが、リムには良い方向に変わったとは思えなかった。



 何と言うか…極端に言うと生の雰囲気がしなくなったような気がするのだ。



 …でも、その中に、リムは何故か暖かい気持ちを感じるような気もしていた。



「…一体、ここは」



「冷たい感じがする…」



「何でしょう、ここにあってはいけない、そんな感じがします」



 そう言うのに敏感なウィルも同じような感じ方をしているようだ、そして、エルも同意見のようだ。



「ええ、…タロンさん」



「ああ、これはあいつの予想道理になっちまうのかな?」



「…あいつ?」



 タロンの呟きに引っかかるところを感じた。 あいつ…これが誰を指しているかは分からなかったが、こう言うことを予測していた人物がいるというのだろうか?



「行こう、アルメリア」



「あ、タロンさん」



 先に進むタロンとそれについていくアルメリア。



「あ、ちょっと」



 慌ててリムもそれについていく。












「…これ、は?」



 さらに進んだ場所、そこにあったのは…。



「これが、洞窟?」



 それはどう見ても洞窟に見えなかった。



 岩肌がむき出しているわけではなく、人工的に作られた壁が、床が、明るく輝いている。



「ぼう、きょ、う、の、やし…ろ? 『望郷の社』? …それに、これは、超科学か?」



「ちょう、かがく?」



 入り口の方で何やら標識らしきものを見ていたタロンの口から聞きなれない言葉が飛び出してきた。



「ああ、古代…今から500年以上前に栄えていた文明、その文明が生み出した力だ」



 そう言いながらタロンは洞窟に近づいていく。



「ほら、昨日襲ってきたあの像、あるだろ?」



「ああ、あの杖を持った?」



「ああ、それも超科学の知恵の結晶なんだろう。 この洞窟自体も、その超科学の知恵の結晶なのかもしれない…が」



「が?」



「それにしては、技術が進みすぎてるんだ」



「?」



「今残ってる遺跡とかから察するに、昨日の像、あんなものを作り出す技術やこんな洞窟を作り出す技術が古代文明にあったとは思えないんだ」



 話が飛びすぎていて良く分からなかったが、それは過去の技術じゃないと言うことなのだろうか?



「言ってしまえば、過去の技術…それをさらに進化させたような、そんな感じだ」



「さらに、進化?」



「ああ、魔法だってそうだろ? 人々が研究して、新たな魔法とかが出来る。 それと同様に超科学も発展途上で、研究すればさらに新しい分野が開けるんじゃないかと言われているんだ」



「…」



「ただ、その進化させるだけの技術が今はないらしいんだ、出来たものを使うことはできてもな」



「…タロンさんは、どこでその知識を?」



 エルのそう言う問いに対してタロンは、



「ああ、おれの知り合いに、熱心な考古学の研究家と超科学の研究家がいてな、それでくわしくなっちまったんだ」



 苦笑しながらそう答えた。












「さて、と」



 改めてこちらを向くタロン、気のせいか、表情が少し険しくなっているような気がする。



「リム、ウィル、エル」



「?」



 タロンは一呼吸置いて、リム達にこう言った。



「悪いことは言わない、ここから引き返したほうが良い」



to be continued…。





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2003/08/11 Vol1.00 公開