「う、うん…」
別に太陽の光を感じたわけではなければ凍えるような寒さを感じたわけでもない。
ただ、ふと目が覚めた、そんな感じだった。
ただ、リムの頭は殆ど動いてはいなかったが。
「意外と早いな、リム」
と、テントの外の方から戻って来たタロンがリムに話しかけてきた。
「おはよう、タロン」
「おはよう、リム」
Reason's Fang13話
ハンター崩れ達
「ところで、タロンはいつもこんなに早いのか?」
正直な話、リムはあまりこの時間に起きたことがない。
寝すぎは良くないが寝なさ過ぎも良くない。 それがリムのモットーだ。
「ああ、アルメリアが早いから付き合ってたらおれも早くなった」
苦笑しながらタロンがそう答えた。
「あ、おはよう、リム君」
アルメリアが外から戻ってきたようだ。
「二人とも、外で何してたんだ?」
「秘密だ」
「秘密ね」
リムの問いにほぼ同時に返すタロンとアルメリア。
リムは秘密の前にその仲の良さに思いっきり呆れてしまったのだった。
「おはよ〜ございます〜」
「おはよう、ウィル」
まだ寝惚けているような気がするが、とりあえずウィルも起きてきた。
「と言うことはエルはまだ寝てるのか…」
「起こしてきましょうか?」
ちょっと諦めが入った口調でリムが呟き、アルメリアがそれに答える。
「うん…頼む」
ちょっと考えてからアルメリアに任せることにしたリム。
アルメリアは寝袋が置いてあるほうに行く…そして。
「きゃあああぁぁぁ!!!!」
突然寝ているはずのエルの悲鳴が響いた!
「んな、な、なんだ!?」
「…アルメリア、またやったな…」
突然のことで驚くリム、それに対し予想していたかのように諦め気味に呟くタロン。
「やったって何!?」
「リム、知らぬが仏って諺もあるんだ」
「…」
なんだか気になるが、なんとなくそう言われてしまうと聞くに聞けなくなるリムであった。
「リムさん!! 大根が、マンドレイクが!!??」
「だぁ! もう、落ち着け、エル!」
何故かパニック状態のままリムに詰め寄るエルと、それを押さえるリム。
…本当に、何があったんだ?
「…やりすぎ、かしら?」
「やりすぎ」
のほほんとした雰囲気で言うアルメリアと、冷静に答えるタロン。
出発する前から疲れそうな気がしてきたリムだった。
「ふぅ…」
「ご、ごめんなさい、リムさん。 取り乱してしまって…」
とりあえずエルを落ち着けるのに何故かとてつもない苦労を強いられ、終わった頃にはくたくたになってしまったリムであった。
「で、何があったんだ?」
「あの、それは…」
エルは顔を真っ赤にして言いづらそうにしている。
「…いいや、別に」
もう疲れの所為か本当にどうでも良くなってしまったリムであった。
なんで、朝からこんなに疲れてるんだろうか…俺は。 おもわずリムはそう思ってしまった
あれからラクア印の携帯食を食べて、暖かい飲み物を体に入れたリム達は、マジックテントを片付けていた。
「…さて、と、行くか!」
「うん、そうだね」
「行きましょうか、リムさん」
「分かった、行こう」
「それじゃあ、行きますか」
因みに順にリム、ウィル、エル、タロン、アルメリアの順である。
「うぅ、やっぱり寒いな…」
リムは両腕を組むようにし、そう呟きながら歩いていた。
とりあえず結構歩いたが、周りの風景はやっぱり雪だけのようだ。
結構歩いたが、まるで同じ場所を歩いているような錯覚すらある。
「寒い、ですぅ…」
「お、新たなキャラ開発か?」
「キャラ開発? なんですか、それは?」
「…いや、何でもない」
それからさらに数分歩いたところでリムはある気配を感じた。
…この感じ、モンスターじゃない、というか…。
少し考えてからリムがエル、ウィルを見ると、同じく呆れたような表情を浮かべていた。
…こんなところまで追ってきたのか、あの馬鹿三人組は? リムはそう考えていた。
「タロン」
「ん?」
ちょっと立ち止まって話しかけるリム。
「ちょっと悪いんだけど…」
「さっきからの気配の話しか?」
「ああ」
「この程度の気配も消せないんじゃ雑魚だろ? しかし、良くここまで辿り着けたな」
「あの、その気配の主と知り合いなんだけど」
「あぁ、知り合いなのか?」
「う、多分」
「?」
「とりあえず向こうが何か行動を起こすまで無視してて構わないから」
「分かった」
とりあえず言葉が足りなかったような気がするが、タロンは了解したようだ。
さて、あいつ等がどう出るか…。
それから30分くらい歩いて…。
「なあ」
タロンがリムに話しかけてきた。
「あいつ、何がしたいんだ?」
「…頼む、極力無視してくれ」
「? まあ、良いけどな」
とりあえず、歩く、歩く。
すると…。
「このくそウィル! いつまで無視してる!!」
なんかが怒鳴った。
「ん? 何か聞こえた? リム」
あえてリムに振るウィル。
「ん、空耳じゃないのか?」
それに乗るリム。
「そうか、そうだよね」
また、歩く、歩く。
「だあぁ!! 無視すんなぁ〜!!!!」
そう叫ぶと同時に何かが後ろから飛んでくる気配!
慌てずサイドステップで避けるウィル、飛んできたのは投げナイフだった。
因みに投げたのはバンダナをつけたシーフが着そうな動きやすさを重視した服を着た男だった。
「何言ってるの、隠密の魔法を掛けてたんだから分かるわけないじゃないの」
そこに、ローブを着た美形に入る女性がそう言った。
「…隠密系の魔法!?」
タロンが驚いたようにそう叫んだ。
「だから全く気付い…」
「隠密系の魔法使ってここまで気配が漏れてるのを感じたのは始めてだぞ」
「よほど不完全な魔法なんですね、タロンさん」
何気にひどい一言を発するタロンとアルメリア。
「くっ、だが、隠密の魔法すら使えない貴様等よりは…」
「…リムさん、アレを使えると言うのでしょうか?」
少し怒りが入っているエルがリムにそう問う。
その瞬間、ローブの女性に青筋が走ったような気がした。
「貴様等まで私を侮辱するか!?」
ふぅ…と二人の後ろから槍を持った男性が近づいてくる。
「やめんか、ミサ。 ゲルグも落ち着け」
「リーダー、ですが!」
ミサと呼ばれたローブを着た女性が槍を持った男性に詰め寄る。
「どうせ弱者が吠えているだけなんだろう?」
はぁ…とリムは心の中でため息をついた。
因みに、ローブの女性がミサ、シーフ風の男性がゲルグ、槍を持ったリーダー格の男性がリュナンと言う名前だ。
こいつ等は確かハンター崩れの馬鹿者だったはず。
それが何の因縁か、俺等に眼を付けられて、今まで何度か戦ったが全て圧勝。
というか弱すぎるのだ、こいつ等が。
それなのに何かとすぐ因縁付けたがる。
しかも口が悪いのでかなり言ってることがムカツク。
「リム、それよりも」
リュナンがリムに話しかけてくる。
「その後ろの二人は?」
「ああ…」
「俺達に敵わないとおもって助っ人でも呼んだのか〜!?」
…説明しようとしたリムをさえぎってかなり馬鹿にした感じでゲルグがそう言った。
「うわ! すっげえ美人ジャン!!」
…こいつは…。
「ねえねえカノジョぉ、こんな奴等ほっといて俺と遊ばない?」
…どこで遊ぶつもりなんだ? こいつは…。 余りのことにそんな逃避じみた思考になっているリムだった。
「お前、良い根性してるな」
ゲルグに向かってタロンが言い放った。
…少し怒りの感情も込めて。
「その夫がここにいるってのに」
それは、自分の目の前で妻をナンパされて不機嫌にならない夫はいないと思う。
「え?」
ゲルグは、タロンを見て、アルメリアを見て、またタロンを見て、そしてもう一回アルメリアを見て。
「なんだ、夫持ちか、でもさ、そんなダサい夫捨てて…」
バチィィン!!
ゲルグが言い終わる前にそんな乾いた音が響いた。
アルメリアが、ゲルグに、ビンタを食らわせていたのだ。
「いい加減にしてください」
その声は、今まで聞いたことのないほど怒りに満ちているような気がした。
「タロンさんを、侮辱するのは、許しません」
そう言い終わるとアルメリアはタロンの胸に顔を押しつけた。
頭を撫でるようにアルメリアの頭を抱くタロン。
アルメリアはそこで何かを呟いているような気がしたが、リムにはそれが聞き取れなかった。
まだビンタされたことが理解できてないのか、固まっているゲルグ。
だが、はっと正気に戻ると、すぐその表情を怒りの表情に変える。
「この、アマ…ッ!!」
アルメリアに掴みかかろうとしたゲルグを、タロンが、弾き飛ばした。
正確には、腹に一撃、拳を入れて、そこから回し蹴りにつなげたのだ。
「ゲルグッ!」
慌てて近寄るリュナンとミサ、二人にタロンが言い放つ。
「これ以上ここにいたら、命の保証はしかねるぞ」
タロンのその声には、明らかに怒りが混じっていた。
「くっ…覚えておれ!!」
捨て台詞を残して、リュナンとミサはゲルグを引きずっていった。
「本当に、信じきれるのか? おれは…」
タロンが、そう呟いた。 その時のリムには、その言葉の意味がわからなかった。
to be continued…。
戻る
2003/05/15 Vol1.00 公開