「はぁ、はぁ、ふぅ…」



 何とかリムは森の入り口まで辿り着いた。



「リム、はぁ、ここにキュリちゃんが、はぁ、はぁ、いるのか?」



「リム、大丈夫?」



 結構息があがっている義父と、全く切れた様子のないウィル。 義父はともかく、ウィルは何故息が切れないのだろうか…。 本気で走ったのに…。



Reason's Fang12話
リムウェル=キュリアス4














 とりあえず近くの義父が良く弁当を食べると云う場所まで歩いてみる。



「…あれは?」



 リムが何かを見つけて、近寄ろうとしたとき!



「何物だ!」



 森の中から剣を持った2体のリザード戦士が現われた!



「ちっ!」



 咄嗟に短剣を抜くリム。 リザード戦士が襲いかかってくる!



 ガキィ!! という音を立てて剣と剣がぶつかり合う!



「我が胸に宿るは護りの意思! 我が仲間、その力を! パワーフィル!」



 その時、ウィルの魔術が発動する! 光がリムの中に入り、リムに力が湧き上がる!



「はッ!!」



 短剣でリザード戦士の剣を弾き飛ばす! と、もう片方のリザード戦士が攻撃してくる!



「ぬぉぉ!!」



「うわ!」



 バックステップで距離を取るが、続けざまに前進攻撃をしてくる!



 ガキィ!! 何とか短剣で攻撃を受け止める!



 そして、そこからリザード戦士に蹴りを叩きこむ!!



 ゴスッ! っと鈍い音を立てながらリザード戦士がよろける! だが、剣を取りに戻ったリザード戦士が立ちふさがる!



「ちっ…きりがないな」



 バックステップで距離を置き、短剣を持って構える。 剣に力をつぎ込んでいく…。



「せぁりゃぁぁ!!」



 叫びながら片方のリザード戦士が攻撃してくる! 今だ!



「風荒剣!」



 攻撃を横っ飛びで避けて、後ろで構えているリザード戦士に剣を振り下ろす!



「ぐはぁ!!」



 風の刃はリザード戦士の胸を貫く!!



「おのれ!」



 仲間がやられた事で激昂したのか、残り一体のほうが襲いかかろうとする! …が。



「大地の悪しき息吹よ、敵を包み込め! アシッドガス!」



 ウィルの詠唱と共にリザード戦士の周りにガスが立ちこめる!!



「ぐ、が…はぁ…!」



 毒をまともに吸い込んだのか動けなくなるリザード戦士! すぐさま近寄り止めを放つ!!



「ぅ…ぁ」



 血しぶきを上げてリザード戦士は倒れた。















 敵が動かなくなったのを確認して、先ほど見つけた物を改めて見てみる。



「これは、キュリ姉の…髪留め!」



 それは、間違いなかった。 キュリ姉が使っていた髪留めだった。



「と言う事は、間違いなくキュリはここに来ていたんだな」



「…というか、居たんだ、父さん」



「…それはないだろ」



 さっきも戦闘に参加しなかったから居ないと思っていたリムであった。



「それよりも、ここにリザード戦士が居たって事は、キュリさんは…」



「…とにかく、探そ…!」



 言いかけて、リムは物音に気付き、すぐに隠れた。 ウィル、リムの義父もそれに続く。



「…」



「…ああ、全くだ」



「…狩りに来ていると思ったのだがな…」



「…まあいいさ、どうせ今日狩りをしたのは…」



「…そうだ、どうせ襲うのは…」



 どうやら通りすぎていったようだ、断片的にしか聞こえなかったが、恐らくリムの村の話だろう。 今日狩りをするのがわかって、襲うつもりなのか?



 …いや、恐らく食料はついでだ、始めから新たな奴隷を探すつもりで、襲う日を狩りをする日にあわせたのだろう。



「…! ウェズ!」



 先ほどのリザードが大声を上げる。 …ウェズ? もしかしてさっきのリザード戦士か?



 リムは後ろのウィルと義父を見た。 二人ともうなずく。 そして、飛び出す!!



 ガサガサッ!!



「! 何者!?」



 物音に気付いたリザード戦士たちが振りかえる。 敵は3体! すぐさまリムは短剣を取り出し、手近なリザード戦士を斬り付ける!



「うぐっ!」



 それは腹部に刺さり、敵を深く傷つける!



「この…っ!」



 不意を付かれたリザード戦士が襲い掛かる!



「甘いぞ!」



 リザード戦士の剣を事もなくはじき、素早く斬りつけるリムの義父。



「せい!」



 鞭で素早く剣を巻き取り、はじき、鞭で打つウィル。



「止めッ!」



 武器を失い、護る術のない敵を切り裂くリム!



「しかし、どうやってキュリちゃんを探すか…」



 剣を仕舞いながらそう呟くリムの義父。



 確かに、もし村を襲うつもりならそれなりの人数で来るだろう。 そうなるとこの森にも結構な数の敵が居ると見て間違いないだろう。



「父さんは、この事を村長に伝えて」



「リムは、どうするんだ?」



「このまま残ってキュリ姉を探す」



「いくらなんでも無茶だ…」



「でも、このままだと村が危ないんだよ…」 



「う…」



「因みに俺は絶対に残るから」



 コレだけは、なんと言われようと、引けなかった。



「分かった。 だが、伝えたら戻ってくる。 無茶だけはするなよ」



「ああ」



「ウィル君、リムを頼む」



「はい」



 そう言ってリムの義父は走り去っていった。



「それじゃ俺達は奥に行って見よう」



「うん、そうだね」















 リムの義父と分かれてから10分程立った。 途中でリザード戦士と出くわしたが、何とかやり過ごして事無く進んでいた。



「結構奥に来た気がするけど…」



 ウィルが呟く。



「ああ、下手したら前線の部隊と出会うかもしれないな…」



 リムが相槌を打つ。 …と。



「…何か聞こえる」



「え」



 耳を澄ますウィル、だが、何も聞こえない。



「…これ、は?」



 そう呟いて茂みを静かに分け入るリム。 ウィルも慌てて付いていく。















 分け入った先に見えた光景、それはリムを絶句させた。



 そこにあったのはちょっとした広場、そこにいたのは…座り込んでいる数名のリザード戦士とそれに囲まれているようにして倒れているキュリ…。















 突然全ての感覚が感じられないかのような、そんな感覚にリムは陥っていた。



 ウィルが何か話しかけているような気がする。 リザード戦士の怒声が聞こえるような気がする。 だが、今のリムにはどうでもいいような気がしていた。



 そんな時、どこからか声が聞こえてきた。



 …憎いか?



 …何が?



 目の前の光景が、周りの奴等が…。



 …。



 …憎いなら、壊してしまえばいい。



 …壊す?



 …そうだ。 お前にはその力があるんだろう?



 …。



 …壊せ、壊してしまえ。



 …壊す。



 …ソウダ、ソンナモノ、コワシテシマエ。



 ニクムベキモノ、スベテヲコワシテシマエ。



 もはやどちらがどちらの声か判断が付かなくなっていた。 いや、どちらも自分の声なのかもしれない。



 コワセ、コワセ! コワセ!!



 コワセ、コワセ! コワセ!!



 コワセ、コワセ! コワセ!!



 コワセ、コワセ! コワセ!!



 コワセ、コワセ! コワセ!!



 コワセ、コワセ! コワセ!!















 コワセ!!















 …正直な話、この後のことはほとんど覚えてはいない。



 あとでウィルに聞いた話なのだが、周りの木々や草は完全に燃え、周りにいたリザード戦士たちは全て炭と化していたという。



 そんな中で、俺、ウィル、そしてキュリ姉は無傷だったという。



 また、その魔法の所為かどうかは知らないが、それ以降リザード戦士達が村を襲うという話は聞かなかった。



 …そして、その数日後。 俺は、村を出発する支度を整えていた。















「…と、これでいいかな?」



 纏めた荷物をみてリムがそう呟いた。



 周りは闇で包まれている、俗に言う夜という時間帯だ。



「…結局、逃げ、なのかも…」



 どこと無く自嘲気に呟くリム。 あれから数日、村は平静を取り戻していた。 キュリの周りを除いて。



 キュリは、あれから男性恐怖症になってしまった。



 時間がたてば直るかもしれないが、今はキュリの母位しか傍に居れない。



 結局、俺は、そんなキュリ姉を見ていられなくて、逃げ出す…。 そうリムは考えていた。



 だが、実際に村にいたとして、耐えられる自信も無かった。



 それで、ふと、あの日の事を思い出す。



「力の暴走…」
 数日前、キュリ姉を前にして出現したらしい力の暴走、その前のあの声…。



 あの様な状況がまた再び再現されてしまうのではないか? そうリムは怯えていた。



「弱いんだよね、結局は…」



 今日、リムは家を出るつもりだった。



 義父にも、義母にも何も告げていない、一人で、最低限の自分の荷物だけ揃えて、一人で旅立つつもりだ。















「…さて、行くか」



 あれからこっそり家を出て、村の出入り口まで来たリム。 …と。



「リム、やっぱり…」



「…ウィル」



 なんとなくリムは予想していた。 ウィルがここにいるんじゃないかと。



「僕は、馬鹿だから、リムの気持ちの全ては分からないよ」



「…ああ」



「でも、それでも、付いて行きたいんだ」



「止めないのか?」



「止めても、行くでしょ? だったら、旅は道連れ」



「…付いてきたければ、かってについて来い」



「あ、待って!」



 そういって歩き出すリムと、それを追いかけるウィル。



 二人を、月明かりだけが照らしていた…。















 あれから、5年の月日が経った。



 自分の内的存在の認知、エルとの出会い、思い出せないほど色々なことがあった。



 そして今、リムは『理の牙』を探している。



 自分の内的存在を封じるため。



 …だが、内的存在を封じて、それからどうするんだろう? どういう顔をして、キュリ姉と会えばいいのだろう…。



 混沌にはまり込んだ思考は、しばらくリムに休息の時を与えそうになかった…。



to be continued…。





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2003/05/15 Vol1.00 公開