そう、それは5年前、ウィルと出会ってからの話しだ…。
話しの舞台は、今居るディクトース大陸から少し離れた所にある、クロフィニ大陸カルラ地方と呼ばれる場所の、フィナ族と呼ばれる人竜族の村だ。
Reason's Fang11話
リムウェル=キュリアス3
いきなりだが、リムは親の顔を知らない。 いや、正確に言えば生みの親の顔を知らないのだ。
リムが人竜族なのは戦闘中に鱗が浮き出す事が示している。 だが、彼は親切な子供の居ない夫婦に拾われた子だったのだ。
リムがフィナ族の人竜族だとは限らないのに、フィナ族の人達はリムを優しく迎え入れてくれた。 それは村の気質とも言える。 争いを嫌う部族。 だからリムはここまで育つことが出来たのだ。
もし人間族の街だったらこうは行かない。 少なくとも全員が全員そうではないからだ。 人間族は自分とは違うものを激しく忌み嫌う性質がある。 それは本能でもある。
少し話はずれたが、とりあえずリムは幸せに育った。 そう、今から5年前、大体リムが13の時までは…。
リムがウィルを見つけた事。 保守的な者の中にはそれを凶兆だと言うものも居た。 だが、リムは、そして村人の大半はそれを気にしていなかった。
だが、その後悲劇は確かに起こった。 ウィルの所為ではないが、リムの周囲で。
「…んん」
まぶたの裏に眩しさを感じる。 それはリムの意識を急激に覚醒させていった。
「…ふぃ〜…」
とりあえずベッドから体を起こし、伸びをする。 それと同時に残っていた眠気が少し晴れたような気がする。
それからリムはベッドから這い出し、着替えを手に取り着替える。 子供用の服としては少し地味ではないか? と思える服だったが、リムは気にせずそれを着る。
リムは服は材質以外は余り頓着しないタイプだ。 それは5年後も今も変わらなかった。
「おはよう、リム」
キッチンに行くと、リムの義母が朝食を作っていた。 なにやらいい匂いが漂ってくる。
「おはよう、母さん」
挨拶を返し、とりあえず外に出る。
「ふぅ…」
リムは息を一つついた。 このクロフィニ大陸は全体的に気候が熱帯や亜熱帯に属する。 だから、朝とは言え寒いと言う事はなかった。
そして深呼吸をするリム。 朝の清々しい空気が体の中に入ってくる。
一通り深呼吸を終えて家に戻るリム。 リビングから朝食の匂いが漂ってくる。
「おはよう」
「おはよう、父さん」
先に椅子に座っていた義父に挨拶を交わす。 そして、朝食が始まる。
「ご馳走様でした」
「いえ、お粗末さまです」
なんだか母子が交わす会話ではないような気もするが、リムは気にしなかった。
「リム、もうそろそろ来るんじゃないか?」
「あ、そだな」
父がそう言ってリムが反応した時。
「リム君〜」
「リム〜?」
入り口のほうから男と女の声が聞こえた。
「と、言ってる傍から来た」
と苦笑しながらリムは言った。
「おはよう、リム君」
何時の間にか入ってきた女性の方がリムに声を掛ける。
「おはよう、キュリ姉」
彼女はキュリミナ=リミア。 リムと同じ人竜族の女性だ。
因みに、彼女はリムの理想になっている。 彼女は何でもこなすと言う印象がリムの中であり。
それがリムの憧れにもなっている。
「おはよ〜リム」
その後ろにはウィルが立っていた。
因みに今はキュリの母親が経営している宿屋で世話になっているのだ。
「おはよ、ウィル」
「えと、今日は狩りだっけ?」
「ああ、西の森の方まで行くんだ」
「俺等は南の平原だよね」
リムの問いにリムの義父が答え、リムが呟くように確認する。 たまには狩りをして、獲物を取らなければならない。
そしてそれは基本的にリムと義父、ウィル、キュリの役目になる。
リムとウィルは承知のとおり、まだこのころは戦闘経験が豊富ではないが魔術、武器の腕前共に、キュリは魔法が、義父は剣の腕前が確かなのだ。
「よし、それじゃ行くか」
そう行って立ちあがる義父。
「気を付けてね、貴方」
「ああ、行ってくるよ」
「それじゃ、俺達も行くか」
「そうだね、リム」
「行きましょうか、リム君」
「ああ、それじゃ母さん、行ってくる」
「気を付けてね、リム」
リム達はそう行ってから家を出た。
リム達は村から出て数十分したところにある平原に辿り着いていた。
周りには木もまばらではあるが、短めの草が生え揃っていた。
ここにはモンスター含め、獲物となるものが多い。
「えっと、そう言えば何を狩るの?」
「ん? 動物だが…その中にはモンスターって呼ばれる類もいるぞ」
「あ、そうなんだ」
そう言えばウィルは初耳だったか? そう考えつつリムは話した。
「さて…向こうから来てくれたみたいよ」
キュリがそう呟きつつ弓を構える。 キュリが見つめている方向を見ると、確かに、狼みたいなモンスターがこちらに向かってきてるようだ。 その数2体
「キュリ姉、ウィル、援護頼む!」
リムはそう言いつつ短剣を抜き払い、駆け出す!
ウィルも鞭を取りだし、キュリは詠唱に入る!
狼はリムめがけて突進してくる! リムはサイドステップでそれを難なくよける。
「はっ!」
同時に、短剣を振り払う! それは狼の体を掠った程度だったが、狼達はリムに注意が向く!
「水の精霊よ、我に力貸し与え、強き力纏いて敵を打て! アクアブリット!」
キュリが詠唱していた魔術を放つ! 水の弾は狼を撃ち抜く! そのまま狼は動かなくなった。
リムはもう一体の狼と対峙している。 お互いに動かない。 と。
「それ!」
ウィルが鞭で狼を攻撃する! それを何とか狼は避けたがバランスが崩れた!
「っ!」
リムはそれを見て駆け出す!
「加速撃!」
リムは短剣に体重を乗せて駆け出した勢いのまま狼を切り裂く!!
それが致命傷となった狼は絶命したようだ。
「ふぅ…」
リムはそれを確認すると血をぬぐって短剣を仕舞う。
「これじゃ足りないな、もうちょっと狩らないと」
「そだね、もっと奥に行ってみる?」
「ええ、そうしましょう」
と言う訳で大きな獲物を探してリム達は草原を歩いた。
「…猪だ」
「…猪だね」
「…猪ね」
何故か3人揃って口にする。 確かに目の前に居たのは猪、だが…。
「でかいな」
「でかいね」
「でかいわね」
また何故か3人揃って口にした。 そう、でかいのだ、結構。
縦の大きさだけで2メートルはあるのではないかと思うくらいでかいのだ。
「こっち見てるな」
「こっち見てるね」
「こっち見てるわね…ってもう良いわよ」
またまた何故か3人揃って口にした後、溜め息混じりにキュリがそう付け加える。
「というか、殺る気いっぱい?」
ウィルがそう疑問を口にする。 ちなみにリムにもそう見える。
「俺もそんな気がする」
と、リムが口に出しつつ短剣を構える。
「そうね」
と、キュリが呟き弓を構える。
こっちが戦う意思があるのを感じたのか、猪がこちらに突進してくる!
「うわ!」
慌てて避けるリム。 ほかの二人も避けられたようだが、分散してしまった。
「ちっ…風荒剣!」
リムは猪に風の刃で斬り付ける。 大した傷は与えられなかったが、案の定、猪の意識はこっちに向かった。
頼むぞ…とリムは心の中で呟き、構えた。
猪は再び突進してくる! だが、何とか避けるリム。
「おっと。 …さて、どうしたものかな…」
リムはそう呟く。 と、その時。
「風よ! 我が声を聞き敵を打ち滅ぼせ! エアプレッシャー!」
「大地よ! その力を持ちて敵を拘束せよ! アースバインド!」
ウィルの声とキュリの声がかぶる。 猪の足元の土が陥没したと思いや、その周囲の土が固まり、猪の動きの自由を封じる! 同時に、圧縮された空気が猪を叩く!!
「今だ!」
それを好機と見たリムは駆け出す! そしてある程度近寄ったところで跳躍する!
「はッ!!」
リムが刃を思いきり振り下ろす! それは猪の体を確かに切り裂く!
「…双撃刃ッ!」
リムは沈みきった体をばねにもう一度同じ場所を斬り上げる!!
リムの刃は猪の体を深く抉り、猪は倒れ、動かなくなった…。
「…ふぅ、こんなもんかな?」
「でも、どうしよう、これ…」
とりあえず猪を倒したリムだが、余りに猪が大きかったため、切り分ける破目になったのだ。
とりあえず運びやすいように切り分け、持ってきた箱に入れる。 が、入りきらなかった。
「うーん、周りの動物達のえさね」
苦笑しながら言うキュリ。
「でも、こんなに大きな猪始めてみたぞ」
「確かに、変ね」
「うん」
生物体系全体から言うと一匹だけがここまででかくなる事はない。 だが、こんな大きさの猪は今まで見たことがないし、聞いた事もなかった。
「でも、とりあえず村長に報告して終わりかな?」
「そうだね」
「ええ、それじゃ帰りましょうか? …あ、いけない!」
「? どうした? キュリ姉」
「小父さんに早めに言っておかなくちゃいけない事があったんだ、すっかり忘れてた…」
溜め息をつきながらそう言うキュリ。
「父さんに?」
「ええ、どうしよう…」
今は昼ちょっと前位、いつまでに言っておかなければいけないのかは知らないが、慌て様からすると今すぐぐらいでないといけないような気がする。
「…しょうがないわね、リム、先に帰ってて」
「キュリ姉?」
「あたし、森に寄ってから帰るわ」
「え? でも父さんもすぐに帰ってくると思うけど…」
「多分ここから森に付く頃には、小父さんは森の入り口の所の辺でお昼を食べてると思うわ」
…確かに、リムもそう思った。
「それじゃ俺も…」
「リム、貴方はこの獲物を持って帰らないといけないんでしょ? 一人じゃこの量はつらいわ。 だから先に帰ってて」
「あ、うん…分かった」
言い終わったらキュリは走っていった。 だが、リムはこの時、無理にでも付いて行ったほうが良いような気がしてならなかった。
「リム…僕、なんだか嫌な予感がするよ」
「…とりあえず、この獲物を村に持って帰ってからだな」
リムは不安を打ち消すように明るくそう言い、歩き出した。
リムが村に帰ったとき、村はなんだか慌しさが漂っていた。
「どうしたんだろ?」
「あ、リム!」
村の入り口に近づいた時、村の村長が話しかけてきた。
「あ、村長、どうしたんですか?」
「嫌な情報だ、クラミアのリザード達が西の森の近くに出没しているらしい」
「え!?」
クラミアのリザード。 リムも良くは知らないがそれはとても強暴な部族で、戦争をこのみ、負けた部族の者は奴隷か性奴にされてしまうか、殺されてしまうと言う。
「ちょ、ちょっと待ってください! 西の森にはリムの小父さんが…」
「…それに、キュリ姉も向かってる!」
「なんじゃと!?」
その一言に長老は驚いたようだ。
「…」
「リム、どこへ行く?」
「父さんとキュリ姉を探しに…」
「危険だ!」
「…でも! 見捨てて置けない!」
そう言って走っていくリム。
「あ、待て! リム! …すまん、ウィル。 リムを…」
「はい」
「リム! ちょっと待って!」
「ウィル、悪いけど止めても…」
「僕も一緒に行く!」
「え?」
その言葉を聞いてリムは動きを止めた。 と、その時。
「リム? それにウィル君」
向こうの方から声が掛かった。 その声の主は。
「父さん!」
「小父さん!」
リムの義父だった。 どうやら獲物を取って帰ってきたところだったようだ。
「どうしたんだ二人で? キュリちゃんは?」
「父さん、キュリ姉見なかった?」
「いや、見てないが」
「…ってことは、まだ森!?」
そう言ってリムはまた走り出した。
「な、なんだ? なんだ!?」
「小父さん、実はキュリさんが…」
…早く、早く森に…! その思いだけがリムを動かしていた。
to be continued…。
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2003/05/15 Vol1.00 公開