「リム!?」
何とか体を動かせるようになったウィルが駆け寄り、詠唱を始める。
「我が同胞に、救いの癒しを! キュア!!」
ウィルから放たれた光はリムに宿り、吸い込まれていった。
リムに特に目だった外傷は無かった、呼吸も安定している。 ウィルはそれを確かめると鞭を手に取った。
「…2体相手なんて」
正直に言って勝ち目は無い。だが、リム、あるいはタロンが加勢できるようになるまでの時間は稼がないといけない。 ウィルはそう思っていた。
Reason's Fang10話
リムウェル=キュリアス2
「雷よ、我に宿りて敵を討て! ライトニングウィップ!!」
ウィルが詠唱を終えた刹那、ウィルの鞭が黄金色の光に包まれる!
「アミークテール!!」
ウィルは光に包まれた鞭を振り回す!! 鞭が像に当たった瞬間、像の体が電気に包まれる!
「これで…うわ!」
だが、像には効かなかったのか、杖を薙ぎ払って反撃してくる!
「勘弁してよ…」
思わず呟くウィル、同時に詠唱に入る!
「炎の神よ、我に敵する者達に裁きを! フレイムランサー!」
ウィルの腕に炎の塊が出現し、像に向かって射出される! 炎に包まれる像!
「…ん?」
また像が反撃してきたのだが、その攻撃は先ほどに比べると遅くなっているようだった。
炎か、あるいは高熱が弱点なのかな? そう見当をつけるウィル。
だが、相手も2体が一緒になって攻撃をしてきて反撃の隙を与えない!
それは、相手に弱点を知られたことにより攻撃をさせないようにも見えた。
「やばい、かな?」
それでものんびりと呟く…と言うよりしゃべるのがウィルのウィルたる由縁なのだが。
ウィルが像の弱点に気付き始めた頃、タロンも感づいていた。
…なら、一瞬で決める!
「っ!」
タロンは構えると、高速で像の後ろに回りこむ! 像はタロンのスピードに付いていけない!
「篭爆!!」
タロンは詠唱無しで魔法を発動する! タロンの手から発せられた赤い光球が像の周りを取り囲むように移動し、赤い光球同士が赤い線で結ばれる…そして!
ドゴォォォォン!!!!!
赤い線で結ばれた内側に爆発が巻き起こる!! 爆発が収まった時には像は跡形も無くなっていた!
「…ふぅ、久しぶりに使ったな、コレ」
どうやら必要以上に魔力をつぎ込んでしまったようで、久しく使っていなかったことも相俟って体に少し負荷が来たようだ。
「くそ、年か…?」
さらに絶対にありえなさそうなことを呟く。
「ふぅ、さて、アルメリアは」
とりあえずアルメリアの様子を確認する。
「タロンさん…」
「立てるか?アルメリア」
アルメリアは少し離れたところでまだうつ伏せになっていた、が、タロンが声を掛けると何とか立ちあがった。
「なんとか、立てます」
「そうか、大丈夫か?」
「ええ、はい」
「よし、それじゃ後はリム達……っ!」
そう言おうとしたその時、いきなり地響きが走った!
しかも、タロンとアルメリアは感じなれた波動も感じていた!
「…これは、リム?」
「これは、タロンさん!」
リム達が居るであろう方向に振り返ると、そこに巨大な火柱が立っていた!
「全く…」
タロンはそう呟くと、リム達が居る方向に走っていった!
アルメリアもそれに付いてゆく。
「リム、ウィル、エル!!」
「リム君! ウィル君! エルちゃん!」
タロン達が駆けつけると、そこには今だ倒れているエル、珍しく驚いた顔をしているウィル、恐らく像であっただろう炭の塊、そして…それに手をかざしているリムが居た。
「リム…っ!」
タロンはリムに話しかけようとして、突然構え、バックステップを取る。
それとほぼ同時にリムがタロンに向けて短剣を振っていた!
「リム君! どうして…」
「誰かに、操られてるのか?」
タロンはそう呟いた。 リムはこっちを見てはいるが、その眼に光がない。
「いいえ」
ウィルがタロンの呟きに答える。
「リムは、暴走してるんだよ…」
「暴走?」
アルメリアが問う。
「うん、多分、力と感情の暴走…」
ウィルが答える。 アルメリアはタロンの方を見る。 タロンは警戒を解かない。
タロンは、少し疑問を感じていた。
確かにあのパターンには似てるが、何かが違う。 そう感じていた。
「コレは…ひょっとして無理矢理暴走させられているのか?」
タロンが呟く。
「…え?」
「確かに暴走した魔力に付き物のようにかなり魔力が発せられてるが…リムなら制御できるような気がする」
「どう言う…」
「とりあえず」
ウィルの疑問をさえぎってタロンが答える。
「気絶させる、しかないな」
そう言ってタロンは再び構える。
そしてリムがタロンに襲いかかってくる!
「…っ!」
タロンは素早く近づき、リムに拳を繰り出す! それをリムは短剣で跳ね除けようとする! だが。
「ぐはっ…」
気付いたらリムの短剣は跳ね飛ばされ、リム自身も空中に跳ね飛ばされていた。
どすっ…と鈍い音を立てて雪の中に落下するリム。
「ふぅ…」
弾き飛ばした体勢のまましばらく固まり、そしてゆっくりともとの体勢に戻すタロン。
ウィルには何が起きたか理解できなかったのか。
「えっと、何が…起きたのかな?」
と呟いた。
因みに、リムの短剣を左手で弾き飛ばし、右手をそのまま腹部に叩きこみ、そこから顎めがけて左手を叩きあげたのだ。
だが、余りのスピードでウィルには見えなかったようだ。
「とりあえず、今日はここまでにしておくか」
「ええ、そうね」
「…うん」
何事も無かったかのように提案するタロンと冷静に同意するアルメリア、なんだか腑に落ちないウィル、そして…。
「はぅぅ、…すぅ…」
「…倒れてるんじゃなくて、寝てるの? エルちゃん」
「…みたいだな」
流石に雪の中で寝ていたのにはアルメリアも驚き、タロンは脱力していた。
「それじゃマジックテント張るよ?」
そして、何事もないかのように話を進めるウィルであった。
「う…みゅ、人参…痺れる」
「人参がどうしたら痺れるんだ…」
タロンはそう呟いた。 もはや意味不明の領域だ。
「うぅ…」
意識が半覚醒したリムが最初に感じたのは腕の痺れ。
あれ? 俺…どうしたんだっけ? 確か像みたいなのに…。
まだ完全に覚醒していない頭で考えるリム。
とりあえず何とか目を開いてみる…。
「おはよう、リム君」
目の前に居る…と言うよりどアップで映っているのはアルメリアの顔。
「う、うん?」
とりあえず腕を動かそうとするが、痺れているのとは別の理由で腕が動かない。
腕の感じからして、後ろ手で縛られているようだ。
「え? あっと…」
「あ、起きた? リム」
そこにウィルが入ってきたようだ。
「んあ…? とりあえずおはよう、アルメリア、ウィル」
なんだか状況が把握できないがとりあえず挨拶を返すリム。
「おはよう、リム」
「まだ夜なんだけどね」
律儀に挨拶を返すウィルと正論を言うアルメリア。
「おーい、ココアの用意できたぞ〜…お、リム、起きたか?」
そこにさらにタロンが入ってくる。 エルも一緒だ。
「えと…俺、何で後ろ手で縛られてるんだ?」
「いや、危険だったから…」
タロンに危険、と言われて自分が何をしたのかようやく思い当たった。
「あ、そか…俺」
「えと、全員無事だったから良かったんじゃないですか? 私には良く分からないんですけど」
「当たり前だよ、寝てたんだから」
フォローするエルとちょっとずれた突込みをするウィル。
「でも、それよりも気になるのが何でタロンがあんなに縛り慣れてるかなんだけど。 それも後が残らない方法も何で知ってるかも気になるし」
ウィルの疑問。 ってか縛りなれてるって…。 タロンが苦笑している所を見るとタロンが縛ったのは間違い無いらしい。
「いいじゃないか、ンな事。 それよりも早く来ないとココア冷めるぞ」
そう言ってタロンとアルメリアは戻っていった。
「とりあえず、縄、解いてくれないかな?」
「あ、ハイ」
そう言って縄を解くエル。 ちょっと緩めただけでするすると解ける。
「何でエルは縄解くの上手なんだ?」
「いえ、タロンさんがここをこうすれば簡単に解けるようにしたって言ってましたから」
「…」
「あ、ここをこうしない限り解けないらしいです、それに腕を縛られている状態じゃここを触るのも無理ですしね」
「でも、魔法を使われたら元も子も…」
変な体制で寝かされていたため少し凝り固まった肩を動かしながら疑問を口にするリム。
「あ、コレは魔法を封じる縄ですよ」
「…なんでそんな物が…」
「あ、タロンさん、これを常備してるんですって」
「…」
ますますタロンと言う人物が分からなくなってきた気がしたリムだった。
そしてそれについていっているエルも良く分からなくなりそうだった。
結局何が起きたのか、リムの中では整理はついていたが、一応なにが起きたかをタロンに聞いた。
その内容はリムの想像どおりだった。
今は全員マジックテントの中で寝ている。 因みに入り口の方からリム、エル、ウィル、タロン、アルメリアの順で、リムの予想道理アルメリアはタロンにくっついて寝ていた。
他の全員は寝ているようだったが、リムだけ寝れなかった。 リムは過去の記憶を思い出していた。 過去に起きた事件を…。 リムが『理の牙』を探し出すようになった、その動機を…。
to be continued…。
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2003/05/15 Vol1.00 公開