しばらく歩いていたが、周りには一本の木も無く、深く積もった雪のみがさびしい情景を埋め尽くしている。 まさに、永遠に変わらなさそうな情景。



「なあ、ウィル」



 リムはウィルに話し掛ける。 だが、ウィルから反応が無い。



「ウィル?」



「…え? ああ、ごめん」



「どうしたんだ?」



 何故か若干顔色が悪い気がする。



「ごめん、ちょっと…ね」



「もしかして…ウィル、ここに見覚えがあるとか?」



 少し、期待を込めて聞いてみる。



「…分からない」



「そうか」



「どうした?」



 少し先行していたタロンが聞いてくる。



「いえ、大丈夫です」



 答えるウィル。



「そうか、でも大事を取って少し休むか?」



「いえ、本当に大丈夫ですから先を急ぎましょう」



「…分かった」



 そして再び進む一行。



「ウィル、やっぱり…」



「うん」



 ウィルは呟くように言った。



「やっぱり、そう簡単に戻らないんだね、記憶って」



Reason's Fang8話
友の絆














 ウィルには記憶が無い。 リムとウィルが出会った5年前より前の記憶が。



 別に5年前に突然生まれたわけではないと思う。 俗に言う記憶喪失だ。



 覚えていたのはウィリアムと言う名だけ。 他にはほとんど覚えていない。



 いや、一つだけ確かに覚えていた言葉があった。



 それは…『理の牙』。 そう、彼が『理の牙』に向かう目的は、その無くした記憶を取り戻す手がかりを求めての事だった。















「ねえ、リム」



「ん」



「記憶って…戻ったほうが良いのかな?」



「何でまた急に…」



「こうしていると、ふと不安になるんだ」



 ウィルは、どこか遠い目をしながら言った。



「本当の僕って、何なんだろうって」



 それは、普段は出ないウィルの一面。



「僕は馬鹿だから、ぜんぜん想像もつかないよ」



「例え馬鹿じゃなくても分からないと思うぞ」



「そうだね」



 そしてリムもウィルも沈黙する。



 そして歩きつづける。



「ねえ、リム、僕は、僕でい続けれるのかな?」



「どう言う…意味だ?」



「もし記憶を取り戻しても、僕はリムの友達で、いられるのかな?」



 ウィルは、不安なんだ。 記憶を取り戻す事が。



 記憶を取り戻すと、記憶を失っていた時の事を忘れる事もあるという。



 そして、恐らく今はウィルの記憶が揺さぶられている。 だから、不安なんだ。



「さあな、でも」



「でも?」



「もし忘れたら、思い出せば良いんじゃないか?」



「…」



「少なくとも、俺にとっても唯一無二の友であることには間違い無いんだ」



「うん」



「それに、新しく作るって手もある」



「うん」



「だから、そこまで思いつめる必要も無いと思うぞ」



「うん、そだね」



 ようやく、いつもの微笑を取り戻したウィル。















「でも…寒いな」



 それまで考えに浸りきっていたリムは、現実に戻ると共に急激に寒さを感じていた。



「…そう?」



「だから、何でウィルは寒くないんだ?」



「全く寒くないわけじゃないんだけど…そこまで寒くないと思うよ」



「全く、ウィルには寒さに対する耐性があるんじゃないか? あるいは先天的雪国仕様とか」



「仕様って…僕は物か?」



 笑いながら答えるウィル。



「ふぅ…」



 溜め息をつきながらリムは歩く。 早くこの寒さが何とかならないかと思いながら。



 ウィルが『理の牙』を求める理由、それは、そこに真実があるから。



 自分すら知らない、真実が。



to be continued…。





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2003/05/15 Vol1.00 公開