「なんだ? 少女を誘拐してきたのか?」
「宿屋に帰ってきてのマスターの一言目が、僕達の人間性を疑うかのような一言だった」
「誰に説明してるんだ、ウィル」
「さあ?」
「…」
Reason's Fang7話
エルとリム2
「で、冗談は抜きにしてどうしたんだ?」
「ああ、実はな…」
とりあえずリムは、盗賊団のアジトで見た事を…恐らく盗賊団に襲われたことは除いて…主人に伝えた。 因みにだが、目的の財宝もきちんと持ちかえっている。
「ふむ…それじゃあ、この子が使っていた部屋に休ませてくれ、一番奥の部屋だ」
「了解」
リムはそう答えると、女の子をおぶったまま階段を上がっていった。
「リム、適当なローブ買ってきたよ」
女の子を部屋で休ませて、様子を見ていたリム。 そこへウィルが帰ってきた。
「ああ、サンキュ」
少女の服が、もうほとんど服とも取れないような布切れと化していたので、とりあえずローブを買ってきてもらったのだった。
とりあえず寝ている少女の上にローブを掛ける。
「どう? 様子は」
「ああ…とりあえず外傷は無い。 精神的なものは知らんが」
「リム、大丈夫?」
「…ああ」
リムを心配するウィル。 過去の事を思い出しかけていたリム。
「全く、分からないでもないけどね、いきなり飛び出していくんだから」
「悪い、ウィル」
「まあ、許しておくよ。 …でも」
そう言って席を立つウィル。
「余り…自分の所為だと思わないほうが良いよ」
「…ああ」
そう言ってウィルは部屋から出ていった。
「………」
ウィルの言いたいこと…リムには分かっていた。
「…くそ…」
どうしても思い出してしまう。 …俺は…。
「うぅ…うん」
後悔に浸っていたリムを少女の声が引き戻した。
「はぅ…あれ? ここは…」
寝惚けたように、少女は部屋を見回し…リムの目を見る。
「…え?」
「おい…」
「…あ」
どうやら状況が理解できていないようだ。
「とりあえず…そのローブに着替えておきな」
そう言って席を立ち、部屋を出るリム。
「…え?」
言われてからもしばらく、状況を理解できない少女だった。
「リム? あの子は?」
「ああ、今起きた…と思う」
「と、思う?」
「ああ。 マスター、紅茶くれないか?」
席に座り、注文をするリム、まだ疑問顔なウィル。
「おお、分かった」
数分して、暖かい紅茶がリムの前に出てくる。
「…うん、旨い」
「リムって、紅茶好きだね」
「そう言うウィルだって、コーヒー好きだな」
「…あの」
そう言って雑談しているところに聞きなれない声が、先ほどの少女だ。 ローブも丁度良かったようだ。
「よう、大丈夫か?」
「…ひっ」
手を挙げて近づこうとしたら怖がられた…。 やっぱりな…とリムは思った。
「…あ、あの…」
怖がりながらも、リムに話しかけようとする少女。
「何?」
極力怖がらせないように気を配りながら、リムは答える。
「…あ、ちょっと、二人で…話しがしたいので」
「あ、ああ」
それだけ言って少女はまた部屋に戻っていった。
「リム」
「ああ、行って来る」
「いや、それよりも襲わないようにね」
「…」
いっそのことグランフレイを撃ってこの場でウィルとの関係を終わりにしてやろうかという誘惑に駆られたが、何とか我慢したリムだった。
「入るよ」
「あ、はい」
一応断ってから少女の部屋の扉を空ける。
「で、何? 話って」
「…あ、はい。 …えっと、あの」
「?」
「…あの、名前…」
「あ、ああ。 俺はリムウェル、リムで良い」
「はい、リムさん…あの、貴方も…」
怖いのかどうか良く分からないが、声が小さくなって聞き取り辛い。
「?」
「貴方も…私を狩るんですか?」
「…かる?」
リムはその言葉の意味が理解できなかった。
「狩るって…えぇ!?」
「でも、私は…構いません」
「ちょ、ちょっと待った! 狩るって…狩りとかの狩るのことだよな?」
「え、ええ…多分」
「どう言う意味だ!? 俺が君を狩るって」
「え? だって、リムさん、人竜族…なんでしょ?」
「…やっぱり、ばれてたか」
なんとなくそんな気はしていた。 でも。
「それで俺が人間を狩ると思ってるなら誤解も良いところだぞ」
「え? …気付いてないんですか?」
「気付く?」
「私が、白龍族だって…」
「ハクリュウ…ゾク?」
どこかで聞いたことがあるような、無いような…。
「うーん」
「あの…」
「…あ、そうか、白龍族ね」
その言葉に一つだけ覚えがあった。
白龍族。 龍族の中でも最も天に近いとされる龍で、黒龍族共々数が少ない…嫌な言い方をすれば希少種だ。
「ふーん」
「あ、あの、驚かないんですか?」
「いや、実ははじめ見た時から違和感があってな」
苦笑しながらリムは答える。
「違和感?」
「ああ、悪いんだが…その姿でその口調は…な」
少なくとも見た目は少女、だが、その雰囲気、口調共に年相応のそれではない。
それに、いかに白龍種だとは言え、絶滅したわけではない。
「それなら説明がつくんだ、不完全だけど」
「そう、ですか…」
「で、なんでそれで俺が…えっと…」
「あ、エルです」
「それじゃエル、何で俺がエルを狩らなくちゃいけないんだ?」
その一言はエルにとっては驚きだったらしい。 それが当たり前であるかのようだ。
「え? だって、私達白龍族は、他の龍族が狩れば凄い力になるって」
「は? そうなのか?」
「え、ええ」
「でも、力には不自由してないしな」
「…でも」
「それよりも、エルは狩ってほしいのか?」
「…それが白龍族の意思ですから」
「白龍族の、ね」
ふぅ…とリムは溜め息をついた。
「それじゃエル自身の意思は?」
「え?」
「エル自身の意思はって聞いてるんだ」
「それは、私も…」
ふぅ…と再びリムは溜め息をつく。
「全く…」
少なくともそれはエル自身の意思ではないと思っている。 だが、エルがそう思いこんでいるような気がする。
「でも、私が傷つけるぐらいなら…私が傷つくのを選びます」
「エル?」
「他の人達が争う所を…見ていたくないんです」
この子は、いくつもの悲しみを見てきたのだろうか?
「分かってます、偽善だって、でも、それでも…」
それとも、そこまで自己犠牲が強いのだろうか?
「私は、誰にも傷ついてほしくないし、誰も傷つけたくないんです」
悲しげに、でもはっきりと。
「これだけは、間違い無く私、エルの意思です」
そう、言いきるエル。
「偽善…だな」
「分かってます」
「例え、それがお前を犯した男たちでもか?」
「…!」
ビクっと、明らかに硬直するエル。 何故か、言い方が冷たくなってしまった気がする。
「…それでも、か?」
「…それでも、です」
今日、何度目かの溜め息。
「私に、争いを収めることが出来れば…良いんですけどね」
そう言いつつ、さびしげに微笑む少女。
「なあ、エル」
「はい?」
「『理の牙』…って、知ってるか?」
「…はい」
「俺達と一緒に…それを探してみないか?」
「リムさん…達と?」
「ああ」
「何で…ですか?」
「ん?」
「何故、私を誘うんですか? 私は…戦闘は恐らくできません」
「…」
「旅に同行すれば、邪魔になるだけではないのですか?」
何故、旅にエルを誘ったか。
何故…だろうか?
それは…。
「…さあな、それに、回復魔法ぐらいは使えるだろ?」
「…」
「すぐに決めてくれとは言わない。 俺達は後数日したらこの街を出発するつもりだ、その時までに決めてくれれば良い」
リムはそう言って部屋を出た。
「…なんで…」
その、エルの呟きは誰にも届かない。
「リム?」
「ウィル…」
「どうしたの? なんか…」
「なんか…なんだ?」
「…辛そう、だよ」
「…」
俺は、ひょっとしたら重ねているのかもしれない。 あの少女と、あの女性を。 リムはそう思えてならなかった。
「気のせいだ」
そう言ってリムは部屋に戻っていった。
「リム…」
「リムさん?」
過去を思い出していたらまたエルに声を掛けられた。
「ん?」
「…後ちょっとです、頑張りましょうね」
「ああ」
結局、エルはリム達に同行することになった。
『理の牙』で…完全な調停の力を手に入れるため。
to be continued…。
戻る
2003/05/15 Vol1.00 公開