あれは…今から3年程前の事。 今居るヴェックビーク地方の南西に位置するトレリアと言う地方。
エルと出逢ったのは、そこの中心都市トレリアだった…。
Reason's Fang6話
エルとリム1
「ふぃ〜……」
妙な欠伸をしながら降りてくるリム。 まだ少し眠そうだが、意識はしっかりしていた。
「おはよう、リム君」
と、宿屋の主人が話しかけてくる。 リムはこの街で『理の牙』の情報を仕入れている間、しばらくこの宿屋に厄介になっていた。
「おはよう、マスター。 朝飯、出来てる?」
「おう、出来てるぞ」
その言葉を聞いて食堂に向かおうとするリム…と。
「ん?」
食堂に先客が居た。 10代くらいの女の子だろうか? マスターには家族は居ないので、それは客と言うことになる。
「俺等以外に客がいたのか…」
思わず呟くリム。 リム達が泊まっている所為で他に宿泊客がいないと思っていたのだ。
だが、それ以上にリムには気になることがあった、雰囲気だ。
「…」
少女と言ったら普通は明るいとか、無邪気とか、見ているだけでそういった雰囲気を連想できる。 だが、彼女は違う、落ち着いたと言うか、悲しげと言うか…とにかく、外見に相応しくないのは確かだ。
それに、もう一つ気になる事がある。
「どうした? リム」
「マスター…あの子」
「ん? ああ、どうした?」
「家族は…居るのか?」
どうしても、あのような雰囲気を纏っている少女に、家族と言う言葉が連想できなかった。 それは、リムの勝手な想像だったかもしれないが。
「いや、一人だ」
「…あの年で一人旅か?」
「さあな、だが、触れちゃいけない事もあるぞ」
「分かってる」
その辺はリムも重々承知だ。 リム自信も、自分が人竜族だという事には触れられたくない。
ばれなかったとしても、それだけで傷つくこともあるから。
だが、何故か気になってしょうがなかった。
「ふわぁ〜〜…おはよう」
とその時、いきなり後ろから声が掛かった。
「あ、おはよう、ウィル」
少し驚きながらも挨拶を返すリム。 ウィルは、時々気配を隠して近づいてくる事がある。 いや、本人は自覚していないのだろうが。
「二人とも起きた事だし、朝にするか?」
「ああ、頼む、マスター」
「ふわぁ〜い…」
「あ〜美味しかった〜」
「相変わらず旨そうに食うな、ウィル」
「そうかな?」
「ああ、さて…と」
そう言って席を立つリム。
「?」
「それじゃちょっと出かけてくる」
「うん、いってらっしゃ〜い」
とりあえず部屋からマントと短剣を取ってきて、着ける。
時期的には暖かい時期になるのだが、朝夕はまだ寒い。 それにいつ厄介な争い事に巻き込まれるとも限らない。
だいぶ前だが、街に入ってきたモンスターを退治する破目になってしまった事もある。
それ以来武器は極力持ち歩くようにしているのだ。
「さて、と」
そしてリムは、街の人ごみの中に消えていった。
「ふぅ…」
リムが宿屋に戻ってきた時には既に日が傾きかけていた。
「ただいまぁ…」
数分後、ウィルも戻ってきた。
「ウィル、何か収穫あったか?」
「ううん、リムは?」
「こっちも0だな」
仕方が無い事なのかもしれないが、『理の牙』の情報はそう簡単に入ってくるものでもない。
もしかしたら…この街も潮時かもしれない。
「もしかしたらこの街には情報が無いかもしれないな…」
「うーん、どうする? マスターはまだしばらくは厄介になっても良いって言ってるけど」
「…もうしばらく調べてみるか」
だが、何故か離れるという気にはならなかった。 頭のすみに何故か朝の少女の事が掛かっているような気がした。
「あ、リム、あとね」
「ん?」
「明日はきちんと働いてから行ってね」
「…」
「リム君?」
「ん?」
気づいたらアルメリアが目の前に居た。
「どうしたの? ボーっとして」
どうやら過去の回想に耽っていたようだ。
「いや…ちょっと、な」
「大丈夫ですか? リムさん」
エルも心配そうにリムを見つめる。
「大丈夫だ、エル」
エルの頭をがしがしと撫でるリム。 ちょっと不満顔をしながらもされるがままになるエル。
だが、リムはその間も別のことを考えていた。
話は、先ほどの回想の数日後に遡る…。
「ウィル、一応情報を持ってるって人を見つけたぞ」
昼が少し過ぎた頃、リムがそう言いながら宿屋に戻ってきた。
「一応…って?」
「ああ、交換条件があるんだ」
「交換条件? 気のせいかな、嫌な予感がするんだけど」
相変わらず鋭いな、そう思いつつ無視して話しを続けるリム。
「北の洞窟にな、最近盗賊団が居るって話しだ」
「いきなり飛ぶね、話し」
「で、その盗賊団を見つけたのは良いが、誰も退治に行ってくれないと」
あえて突っ込みを無視するリム。
「で?」
「今回の情報を持っている人は、その盗賊団に財宝を盗まれたらしいんだ」
「…つまり、僕達にその財宝を取り戻してくれって言いたいんだね」
「そういうこと、流石ウィル」
「…僕は馬鹿だけど、流石にそれくらいは分かるよ、2年だよ?」
「まあ良いじゃないか、情報のためだ」
「…仕方ないね」
「と言う訳で、余り遅くなると場所を変えられる恐れがあるから…」
「今晩…ね、分かったよ」
やれやれと言った感じで部屋に戻るウィル。
「さて、俺も用意するか」
用意を済まし、街を出て盗賊団が居ると言う洞窟の前まで来たリム達。
「ここで良いと思うんだ…ッ」
近寄り、様子を見ようとしたリムは、硬直した。
「どうしたの? リム…あの子は」
リムの眼に映っていたのは、盗賊団とおぼしき男性2人に…その男性に担がれている女の子。
その女の子は、間違い無く数日前にリムと同じ宿屋に泊まっていた女の子だった。
ただ、違うのは…服とは言えないほどぼろぼろになった布切れを纏い、体に痣らしきものが見えたと言うことだ。
「ウィル、行くぞ!」
ウィルの返事を聞かずに短剣を取り出し飛び出すリム。
「うぉ! 何も…ぐはぁ!」
「敵、て…ウワァ!」
男達は女の子を担いでいたため、何も対応できない。 近づき、男達を一刀の元切り伏せる!
「大丈夫? 君!」
どうやら意識はまだあるらしい。 わずかに顔を動かす。
「何者だぁ!!」
「覚悟しろ!!」
先ほどの悲鳴を聞きつけた洞窟の入り口付近に居た盗賊たちがリムを見つけ、襲い掛かろうとする!
「風よ! 敵を撃て!! エア・プレッシャー!!」
そこにウィルの魔法が放たれる! 風の塊が盗賊達を大地に打ち付ける!
「リム…全く、無茶をするんだから」
リムをしかるように言うウィル。 だが、その口調はそうでもなかった。
「悪い、ウィル。 面倒な事に…」
「なんだ! 今の悲鳴は!?」
「表のほうだ!!」
「自警団の奴等か!?」
「話しは後だね、リム」
「ああ!」
ウィルも改めて鞭を取り出す! リムの体にもいつのまにか鱗が浮き上がっていた。
リムは失念していた、少女の意識がまだあったことに、そして、リムの体の鱗に気づいた事に、リムは全く気づいていなかった。
「な? 二人!? 嘗められたもんだな!!」
出てきた盗賊達はおおよそ10人。 対するはリムとウィル。
リムは、盗賊達の声を無視するように詠唱に入る!!
「我が内に宿りし熱き血よ…」
「てめえ! させるか!!」
詠唱するリムに盗賊達が襲いかかろうとする。
「甘いよ!!」
その間に割り込み、ウィルが鞭を振り回す!!
「うわ!」
「アミークテール!!」
ウィルの操る鞭が、ウィルとリムに近づこうとする盗賊を撃つ!
「その熱を持ちて、我が怒りに触れし者達に制裁の一撃を! …ウィル!!」
「分かった!」
「グランフレイ!!」
ウィルが咄嗟に飛び退く、同時に、リムの短剣から紅い光が漏れ出し、光が炎へと変わる!
「ぎぃやゃぁぁ!!」
炎の帯が目の前に居る盗賊達を焼き尽くす!
「くそ!」
「なんだなんだ!」
残った盗賊は3人、さらに中から増援が出てくる!
「気をつけろ! 鱗の奴、強い魔法を…」
「っせい!」
「ぐわ!」
仲間に向かってしゃべりかけていた盗賊をリムが切り払う!
「この!」
近くにいた盗賊が剣を振り下ろす! それをよけて、さらに近寄り、切り払う!
「うわぁ!!」
さらに、離れたところにある程度固まっている盗賊達に向かって剣を払う!
「風荒剣!!」
「うが!」
剣から生まれた風の刃は盗賊達をまとめて切り裂く!
「こいつ!!」
「炎の神よ、我に敵する者達に裁きを! フレイムランサー!」
ウィルも、敵を炎の魔法でまとめて焼き払う!
そして、更なる増援も全滅させ、盗賊団を全滅させた。
「…ふぅ、終わったか」
「みたい、だね」
流石にバテたのか、肩で息をしているリムとウィル。
そしてリムが後ろを振り返ると、少女は…寝ていた。
「と、とりあえず宿屋まで運ぶか?」
「そ、そだね」
なんとなく疲れを滲ませながら二人はそう言った。 無論、戦闘の疲れだけではない。
to be continued…。
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2003/05/15 Vol1.00 公開