「うん、こんなものかな」



 そう言いながらタロンが纏めている荷物の中にはマジックテントといくつかの薬、魔法燃料に携帯食料等が入っていた。



「思ったよりも荷物が少ないですね…」



 エルがそう呟く、リムもウィルも同意見のようだ。



「ああ、でも一応これで2週間は持つぞ」



「え?」



 これで2週間分? 大雑把に見ても1週間分位の荷物しかないような気がする。



「まあ、これだけ荷物が少ない理由はやっぱり食べ物だろうな」



 確かに、携帯食料にしてはやけに小さめのようだが…。



「一応これ1パックで一食分だぞ」



「え?」



「ラクアの所の携帯食料はかなり持つ上に小さいのに腹持ちが良いんだ」



「へぇ…」



「まあ、これだけ有れば行って帰ってくるぐらいは持つだろ」



「驚きです…」



 エルも驚きを隠せないようだ。 というか驚いている。



「ただ、余り食べた感じはしないんだけどな」



 苦笑しつつタロンはそう言った。



Reason's Fang5話
時が凍りし場所














「や、やっぱり外は寒いな…」



 ラクア達に別れを告げたリム達は、とりあえず北の門辺りの所まで来ていた。



「とりあえず、目的地はここから北の方なんだよね?」



「ああ、そう言う話だ」



 やっぱり何事も無いかのように話すウィルとタロン。



「さあ、早く行こう、止まってると凍えそうだ」



「はい…」



 不公平さを感じつつ、リムとエルがそう言う。



「だな、行くか」



 リム達は門をくぐった。















 全員が黙って歩いていた、その中でリムは違和感を感じていた。



 …なんと言うか、雰囲気が違う、と。



 どこがどうとは言えない、が、何かがずれているような、そんな違和感があった。



「ウィル」



「………」



「おい、ウィル?」



「…ん? あ、リム? どうしたの」



「なあ、なんかここ…なんか変じゃないか?」



「…」



「何と言うか…」



「自然の感じがしない?」



「そうそう、そんな感じ」



 自然の感じがしない、それは植物とかが見当たらない訳ではない、ただ、それが自然と言う感じがしない。



 言うなれば、どこか虚像めいているような、本来あるものでは無いかのような、そんな感じだ。



「時が凍る…あながち間違いじゃないかもな」



「え?」



 突然タロンがそう呟き、エルが答える。



「さっきウィルが自然の感じがしないと言ったが、どうやら息吹が無いようだ」



「息吹?」



「ああ、かといって生きていないわけではない」



「?」



 タロンの言っていることをリム達はすぐに理解できなかった。



「息吹が無いけど生きている、ってことは…植物の周りに時間が流れていないって事?」



 もとい、アルメリアはすぐ理解したようだ。



「ああ、おれはこういう風に雪だらけで変わらない雰囲気を時が凍ると掛けていたと思っていたが、あながち『時が凍る』ってのも間違いではないらしい」



「…」



「はぅぅ…」



 ウィルは黙り込み、エルは混乱している。



 リムも、『時が凍る』と言う概念が全く思いつかなかった。



「ええっと…つまりだ、ここの植物はある時点から変化しなくなったって事だ」



「変化?」



「ああ、成長、光合成、呼吸、…老化、消滅等全て…だ」



「それって…生きてはいないのでは?」



「今の状態ではほぼそれと同じだが、もしこの『時が凍る』現象が解ければ、変化が再び始まるんだと思う、何事も無かったように」



 正直言って、信じられなかった。 それは生きる事も無いが枯れる事も無いと言う事だ。 



「『理の牙』の…影響なのかな?」



 リムも、恐らく全員が思っていた疑問をエルが呟く。



「さあな、そもそもこんな現象自体見たのも聞いたのも始めてだ。 まあ、世の中何が起こっても不思議ではないがな。」



 そう言いながら苦笑するタロン。



「冷静だね」



「そうか?」



 ウィルがタロンにそう言う。 リムには十分ウィルも冷静に見えるのだが。



「まあ、少なくとも他の人より色々な事を体験していると言う自負はあるがな」



 そういうことを言うが、リムにはタロンは少し年上程度にしか見えないのだが…。



「さて、そんな事より、お客さんだぞ」



「!!」



 話しと考えに夢中になって気づいていなかったが、前方の方にモンスターが見えた。



 狼モンスター3匹に熊1匹。 リムは咄嗟に短剣を抜き払う。



 ウィルも鞭を取り出し、エルも杖を具現化していた。



 因みに、エルの武器は自分の魔力を具現化したものが主となっている。



 アルメリアも弓を構え、タロンは…何かを詠唱している。



「タロン?」



「メモリー・オブ・ティア!」



 詠唱が終わり左手を高く突き上げるタロン。 同時に、左手が光でつ包まれ、光から一振りの剣が出現した



「おれは弓の方が得意なんだが、前衛が一人じゃ拙いだろ? リム」



 そう言って剣を構えるタロン。



「あ、ああ!」



 確かに、4人も護りながら戦う自信は無い。 前衛が増えるならそっちの方が戦いやすくなる。



「アルメリア、援護頼む!」



「はい!」



「ウィル、エル、行くぞ!」



「うん!」



「…はい」



 …やはりエルは乗り気ではないか。 あいつ、モンスターが相手でも傷つけるのを躊躇うからな。



「ふぅ」



 さて、しょうがない、やるか! 















 警戒していた狼達も、こちらに襲いかかろうと、飛びかかってくる。



 リムもこれを横に避けて、空いた胴に蹴りを叩きこむ! ギャフと声を立てて狼は吹き飛ぶ。



 その時、右手から別の狼が襲いかかってくる! だが、リムも身を翻して攻撃をかわす。



「さて、今度はこっちから行くぞ!」



 リムはそう言い放ち、目の前にいる狼に斬りかかる! その攻撃を狼はバックステップでかわした、だが。



「風荒剣!」



 斬りかかった体勢からさらに一歩前に出て斬撃を繰り出す。 その刃は風を纏い、風が刃と化して狼を切り払う!



「ぎゅぅ!!」



 それで体を斬られた狼が体勢を崩す!



「水よ、力を纏いて敵を打て! アクアブリット!」



 それを狙い済ましたかのようにウィルが魔法を放つ。 生まれでた水が弾丸と化し、狼を貫く!



 狼は弾に弾き飛ばされ、そのまま動かなくなる。



「グゥ!」



 その時、リムの横から別の狼が襲いかかる! リムはバックステップでそれをかわす。



「剣衝!」



 すると狼が襲いかかってきた別の方向から衝撃波が疾り、狼を弾き飛ばした! 早くも1体狼を倒したタロンの放った衝撃波だ。



「風よ! ウィンドクロス!」



 それに合わせたように、アルメリアの放った風の魔法が敵を叩きつけ、切り裂く! その狼は地面に叩きつけられ、動かなくなった。



「ふぅ…ッ!」



 一息つこうとしたリムが殺気を感じ飛び退く、それと同時に、熊が腕を振り下ろした!



「く…ッ!」



 直撃こそ逃れたが、リムの右腕に爪がかする。



「光よ降り注げ! サンシャイン!」



 さらにリムに追撃を食らわせようとした熊に、エルが光の魔法を放つ!



 直接的な被害こそ無いものの、光が振りそそいだ熊は、視界を無くし、立ち止まる。



 それにタロンが詰め寄る!



「っせい!」



 タロンが熊のところまで走り抜け、熊の横っ腹辺りを剣で切り裂く!



 よろける熊にリムが飛びかかり、短剣を振り下ろす!



「グギャアァ!!」



 断末魔の悲鳴を挙げ、熊は動かなくなった。















「ふぅ…終わったか」



 リムはそう呟き短剣を収める。 他のメンバーもそれぞれ武器を収める。



「…エル、大丈夫か?」



 リムは、エルにそう問いかける。



「はい、大丈夫です」



 だが、そう答えたエルはどこか辛そうだった。



「あと、少しですから」



「…ああ、そうだな」



 エルが旅をする目的、それも『理の牙』を求めて。 彼女の、願いを叶える為。



 …自分の周りで、争いを、起こさなくするため。



to be continued…。





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2003/05/15 Vol1.00 公開