Reason's Fang1話
変わり種の冒険者達
「だぁ〜! 何なんだよいったい!!」
いきなり少年がそう叫び出した。
「寒い! 寒すぎるぞ!!」
…寒すぎるらしい。 因みに今その少年がいる場所は、雪原のど真ん中で、雪こそは降ってはいないが、風が吹き荒れており、それが雪を舞い上がらせていた。
少年はそんな中で若草色の服の上から防寒用らしいマントを羽織ってはいたが、寒そうにマントの中で両手を組みつつガタガタと振るえていた。
「まあまあ、リム」
その男の傍にいたもう一人の男が窘めるように話し掛ける。
こちらはローブのような服の上から防寒用のマントを羽織っている。 だが、その表情からは全く寒そうには見えない。
「お前寒くないのか? ウィル!」
リムと呼ばれた少年がそう言い返す。
「うぅ…寒いですぅ…」
その近くにいた少女がそう呟く。 法衣のような服の上から同じくマントを羽織っているが、その表情は青を通り越して土気色といっても良さそうだ。
「…って、大丈夫なのか?エル…」
「…なんだか、眠く、なって、きました…」
エルと呼ばれた少女は、ふらふらと眠そうにしながらそう答えた。
「おい! 寝るな!」
ボコッ!!
ドサッ!!
………
「おーい…」
因みに今のボコッ! がリムがエルを叩いた音で、ドサッ!! がエルが倒れこんだ音。
ついでに言うと、エルはぴくりともしない。
「…」
「…止め、だね」
なぜか明るくウィルが言い放つ。
「どうするんだよ…」
「早く街に行かないと危ないんじゃない?」
「それは解ってるけど」
そもそもここでこんなやり取りをしているのは、迷ったからなのである。
だからこのまま迷いつづけると遭難になりかねない。
「だったら早く行こうよ」
そうやってウィルが指差した先には街らしき影が…。
どうやら、今まで風雪のせいで見えなかったようだ。
「…とにかく、早く…」
そこはかとなく疲れたリムがそう言って駆け出そうとしたが、急に立ち止まり、短剣を取り出し構えた。
リムが後ろを振り向くと、ウィルもいつのまにか武器である鞭を取り出し構えていた。
「ざっと10匹程度か?」
「…みたいだね」
「ちっ、街まで後少しだってのに、面倒かけさせる!」
どうやら周りを魔獣と化した狼達が遠巻きに取り囲んでいるようだ。 リムの顔も自然と険しさが増していた。
エルは相変わらず眠ったまま、ウィルがエルをおぶっている。
「エル護りながらやれるか?」
「やるしかないんでしょ? 全く…リムがエルちゃんを殴り倒すから」
「人聞きの悪い事を言うなよ」
「事実でしょ?」
「違う! 勝手に脚色するな!!」
そう二人が言い争いしている間にも、モンスター達は包囲の輪を狭めてくる。
「…ウィル、いざとなったら援護を頼む」
「リム?」
そう言ったリムの腕には…緑色の鱗のようなものが浮かび上がっていた。
リムはウィルの前に立つと目を閉じ、短剣を顔の高さぐらいまで掲げ、詠唱に入る。
「我が内に宿りし熱き血よ、その熱を持ちて、我が怒りに触れし者達に制裁の一撃を!」
リムの周りに有る雪が溶け始める、リム自身の体が膨大な熱を持っているのだ。
「グランフレイ!!」
詠唱が終わると共に短剣を突き出した。 短剣から紅い光が発せられると同時に紅蓮の炎が放射される!
炎が前方の狼達を薙いでいく、炎が収まった時、前方には溶けかけた雪にまみれる敵意を完全に失った火傷を負った狼しか存在していなかった。
「…癖になりかけてるな…さて、後4体…か?」
短剣を下ろして後ろのほうを睨み付けるリム。
後ろのほうにいた狼達は、一瞬呆然としていたが、すぐに警戒体制に戻る。
「引いてくれるとありがたいんだけどねぇ…」
他人事のように呟くウィル。 同時に詠唱に入る。
「我に纏いし風よ、我が敵に安息を与えたまえ!」
「スリープウィンド!」
敵の狼は、急にばたばたと眠り始めた。
「…使えるなら始めから使おうな」
思わずリムはそう呟いたとか…。
「ふぅ…なんか疲れたぞ」
あの後ウェリアと呼ばれる街に入り、宿屋まで何とかたどり着いた一行、エルは相変わらず寝たまま、ウィルはエルを部屋に運んでそのまま寝てしまった。 因みにまだ昼である。
リムは宿屋の食事所兼酒場になっている所で飯を食べていた。
「しかし、ようやくここまで来たんだな」
感慨深げに呟くリム。
「『理の牙』、その存在を知った、そしてエルにあって、確かな情報を掴んだ」
理の牙、この街に来たのもそれを求めてのことだ。
理の牙とは理を断ち、再生する物と言われる、理を断つ、それは道理を断つ事。
道理を断ち、作りなおす、それはあらゆる望みを叶えると言われる。
リムとウィル、そしてエルはそれを求めて今まで旅をしてきた。
そして、ウェリアの北の時の凍る高原と言われる場所の北の洞窟、そこの奥深くにあるという情報をつかんだ。
「しかし…」
リムはこのことに作為的な何かを感じるような気がするのだ。 出来すぎているというか。
そもそもこの話自体がそんなに古い話ではない、それなのに人々の間に深く浸透しすぎている。
「ああだこうだ考えても始まらないか」
リムはそう考えを落ち着ける事にした。 何にせよ、『理の牙』を見つけた時に全てが分かるだろう。 リムは考えを昔の事に移していた。
「あれから5年か…」
5年前、それはリムとウィルが出会った年、そして…。
「暖かいですぅ…」
思考に浸っていたリムはまるでエルが出すようなアクセントの声で引き戻された。
「いったい誰の真似なんだ、アルメリア」
「いえ、なんとなくです」
アルメリアと呼ばれた女性が、後から入ってきた男性に話し掛ける。
「なんとなくって…まあいいか」
「はい」
アルメリアと呼ばれた女性は何故か嬉しそうに男性に纏わりつく、男性のほうは慣れたようにマスターに話し掛ける。
「マスター、二人部屋は空いているか?」
すぐに興味を失ったリムは飯を食べるのに再び没頭し始めた。
そのせいかリムは気づいていなかった、その男性がこちらのほうを興味深く見ていたことを。
to be continued…。
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2003/05/15 Vol1.00 公開